ブルーインパルス搭乗記(24)おわりに 平和の象徴 願い続ける
【元航空機整備士・添田潤】
半年にわたりお付き合いをいただいた読者の皆さまに感謝申し上げます。今回で最終回となります。4回続きのスピンオフ「整備士の力」から、本編の「展示飛行訓練」着陸後に戻ります。
■両足でブレーキ
滑走路を開放した後5、6番機を待って6機で編隊を組んで駐機場に戻ります。冒頭で紹介したように車輪のブレーキは足で踏む形の方向舵(ほうこうだ)に付いたブレーキペダルで操作します。
左側を踏むと左の車輪が、右側を踏むと右の車輪がそれぞれ単独で利きます。左に曲がるときは左側のブレーキを強めに踏むと左側に偏向していきます。これに加えて操縦桿(そうじゅうかん)を握って小指で押すボタンを押すと、方向舵の操作角が前輪のステアリング(舵取り装置)と連動するようになっています。これら両方を使って曲がっていきます。左右のブレーキの踏み具合で方向を変えることができますが、わずかな違いでも左右に蛇行するため真っすぐ地上滑走するだけでも大変です。
エンジンがアイドリングであっても推進力が強く、ブレーキ操作が難しいわけですが、駐機場に戻る地上滑走中は使用した燃料分軽くなっているため加速が良くなり、なお一層難しくなります。機体が軽い分、挙動は敏感に、そして乱暴になります。整備士の待つ駐機場に入るとき、全機そろって進入します。操縦者の足技には驚かされます。
よく「俺はG(重力)には強いよ」と豪語する方がいらっしゃいます。その自信の根拠を尋ねると「ジェットコースターは平気だから」との回答が返ってくることが多いのですが、何をか言わんやです。
ジェットコースターは女性や子どもでも楽しめるものです。素人であっても7Gくらいの重力には十分耐えられますが、この状況下で正確な判断と動作が伴うか否かです。ただ単に耐えられることがGに強いとは言わないのです。
またブルーインパルスの操縦席は富士山山頂程度の高度では圧力の調整がかかりません。ですので操縦席は外気圧と一緒のため富士山山頂と地上とを数秒で行ったり来たりしていることと同じです。耳が聞こえにくくなることもありますが、顎を動かして耳管を開き、内耳内の気圧を調整しています。風邪をひいたりすると喉の粘膜が炎症を起こし、耳管が開きにくくなるので常に体調管理は重要です。
■万が一に備える
ブルーインパルスはギリギリのスリリングな課目がありますが、全て計算され安全に安全を重ね確認に確認を重ね訓練に訓練を重ねた結果のものです。操縦者全員が全員を確認し地上からも確認し1番機が発する音声には無線機が故障していないことと了解した旨、誰かが必ず応答します。
「万が一」という言葉があります。1万回の中のたった1回という意味に取れます。羽田空港の1日の離着陸回数は1000回を超えるそうです。それならば10日に1回の確率となります。「万が一」はゼロではありません。
ブルーインパルスの操縦者をはじめ整備職域などを含めた航空関係者は「万が一」を身近に潜む危険と捉え常にダブルチェック、クロスチェックでミスをなくす努力を欠かしません。
ブルーインパルスの演技課目は、全て対戦闘機戦闘技術と対地攻撃技術を応用し、その精度を向上させたものです。この技術が本来の目的に使用されることなく、平和の象徴であり続けることを願うばかりです。
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