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ブルーインパルス搭乗記(23) 整備士の力〔4〕 航空祭 駐機位置、手押しで調整

入間基地航空祭当日の朝のブルーインパルス(添田さん撮影)

【元航空機整備士・添田潤】

 航空自衛隊入間基地(埼玉県)の航空祭の朝は早く、出勤時間は午前5時ごろが一般的です。しかし、この頃には大きなカメラバッグを持った観客が並び始めています。開門と同時に撮影スポットの場所取りに走りますが、入間基地には西武鉄道が通っていて非情の踏切が待ち構えます。踏切で足止めされてもなお諦めないバイタリティーには頭が下がります。

■格納庫前は注意

 整備士は一日の流れと役割分担についてミーティングを行った後、航空機を格納庫から搬出します。格納庫の前は自衛隊関係者のほか売店の方々の車も通るため注意が必要です。

 航空機は牽引(けんいん)車で牽引しますが、急ブレーキを踏んでも航空機に押されてしまい、急停止できません。格納庫前を通過する車が途切れたところで、交通統制の隊員と意思疎通を図りながら牽引を開始します。もしも航空機を牽引中に急停止が必要となった場合のため、航空機の操縦席に整備士が乗り、航空機の非常ブレーキを操作します。

■ミリ単位で計測

 駐機場には、駐機する前輪の位置が示されています。この位置はノーズポイントと呼び、前日にブルーインパルスの整備士がミリ単位で計測して表示をしています。ノーズポイントに前輪をピッタリ載せるように牽引するのですが、これが難しい。

 ノーズポイントと前輪が合っていても、駐機場に対し歪(ゆが)んでいてはやり直しとなります。最終的には牽引車を外し、整備士全員で手押しで調整します。なぜそこまでするかというと、観客の方々が横から写真を撮るときに1機でも歪んでいては台無しなので、真横からでも斜めからでも斉一に撮ってもらうためです。

■必ず燃料を補給

 ブルーインパルス全機駐機が完了したら、操縦者が出てきてエンジンを始動させ、整備士とともにエンジン系統、操縦系統、無線系統、酸素系統、空調系統、航法装置など全ての作動点検を行います。作動点検に使用する燃料はわずかなものですが、必ず燃料を補給します。その後、整備支援器材などを撤去し、キャノピー(天蓋(てんがい))を閉めて観客の入場を待ちます。

 写真撮影用にキャノピーを閉めたままなので、操縦席内は高温になり、金属部分が触れないほど熱くなっています。ブルーインパルスの展示飛行は通常午後1時過ぎなので、1時間前の正午過ぎにキャノピーを開けて換気をします。とはいってもほんの気休めでしかなく、金属部分に触ってもやけどしない程度の効果しかありません。

 操縦者はライフジャケットやGスーツを身に着け、ヘルメットを被り操縦席に乗り込みます。操縦者は不測事態が発生した時のため、腕まくりは禁止されています。

 ブルーインパルスに使用されているT4型機は、エンジンがアイドリングの状態ではエアコンはほぼ効きません。夏場に剣道の防具を身に着け、面をかぶってエアコンの効かない車に乗り込む状態を想像していただけると、分かりやすいかもしれません。

 エンジンが離陸する際の回転数に達すると、エアコンの吹き出し口から氷の粒が飛んでくるくらい効きます。急激に体温が下がるとおなかが緩くなったり気圧の関係と相まって眠気が襲ったりするので、温度調整は慎重に行います。いずれにせよ離陸するまでの間は操縦者にとって灼熱(しゃくねつ)地獄が続きます。

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