能登地震 発生半年の現地から(下)復興議論 古里の在り方、住民模索
地震で旅館の柱が裂けた。修理を頼んだ大工は、裂け目をきれいにふさいでくれた。「直していく過程を見ることで、大事に思うようになった。地域の復興もそうなったらいい」。何の思い入れもなかった柱を見て、今はそう思う。
■一層膨らむ葛藤
甚大な被害を受けた石川県珠洲市で旅館「湯宿さか本」を経営する坂本菜の花さん(25)は、古里の在り方を手探りする。
旅館は父の新一郎さん(70)が1989年に創業した。自然とともにある暮らしを味わってもらうため、客室にエアコンやテレビはない。携帯電話の電波はほぼ入らず、食事以外のもてなしも最低限だ。
3年前に経営を引き継いだ。抱えていた葛藤が地震で一層膨らんだ。「今の形が好きだが、時代に合わせて変えていく方がいいかもしれない…」
刷新か、維持か-。旅館と同様、被災した地元も岐路に立つ。市内は古くからの木造建築が多く、全体の6割を超える3649戸が全半壊した。復興後に建物が一新されれば、慣れ親しんだ能登瓦の街並みが失われてもおかしくない。
防潮堤建設や住民の集団移転などの方針も錯綜(さくそう)する中、市は5月、復興計画基本方針を示した。発表された基本理念は「アートや先駆的な技術をベースとした新たな地域づくり」など。地元に根付く1次産業への言及はなかった。
坂本さんは強い違和感を覚えた。旅館の食事は地域の農家や漁師に支えられてきた。何より、周辺の多くの住宅が倒壊する中で、心の救いになったのは被災前と変わらない田畑の景色だった。
■豊かな自然保つ
旅館業の合間を縫って、地域の持続可能性や豊かな自然を保つ復興の道筋を探る。6月上旬にあった地区の意見交換会には100人近くが詰めかけた。関心の高さを感じた一方で、声を挙げられない住民や市外への二次避難を余儀なくされた人たちが気に掛かった。
せめて身近な人たちの思いを知ろうと、仕入れ先や友人らと日々、地域の在り方について意見を交わす。里山の自然の守り方を描いた映画の上映会を開くことが今の目標だ。坂本さんは「個人でできることから始めたい。結果的に同じ思いの人が周りに増えたり、まちづくりにつながったりしたらいい」と前を向く。
「コミュニティーの復興を議論するには、地元を離れている人も巻き込む必要がある」。東日本大震災後、壊滅的な被害を受けた石巻市雄勝地区で住民団体の事務局長を務めた阿部晃成さん(35)は強調する。雄勝地区は住民の意見集約に苦慮した。防潮堤建設や高台移転への賛否も分かれ、人口は4分の1以下に激減した。
宮城大特任助教として復興のプロセスを研究する阿部さんは、古里での苦い経験を基に、能登の被災地で住民独自の復興計画作りをサポートする。「祭りや会合を通じ、住民同士がコミュニティーの意向を肌感覚で共有することが重要だ」と指摘。「要望を整理して行政につなぐ中間支援者も、今後より必要になってくる」と語った。
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