男性育休、普及道半ば 経営側の意識改革必要 今春取得の記者が実態探る
厚生労働省が7月31日に発表した2023年度雇用均等基本調査で、男性の育児休業取得率は30.1%となり、初めて3割を超えた。育児・介護休業法の改正などで子育てに優しい環境づくりが進む一方、政府が25年までの目標に掲げる50%は遠く、女性の取得率との差は依然大きい。今春に育休を取った記者(32)が、取得率向上に向けたヒントを探った。(河北新報メディアセンター・庄司尚広)
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3月に第2子の次男が生まれ、5月末まで約2カ月間の育休を取得した。長男(4)の育児ではほぼ力になれなかった反省もあり、2人目は「自分が主体になる」と意気込んでいた。だが、現実は甘くはなかった。
ミルクをあげても、おむつを替えても、抱っこをしても泣きやまず、途方に暮れたことがあった。幼稚園が春休み中の活発な長男の相手もしなければならず、心が折れかけた。
夫婦で共倒れにならないよう、子どもの相手をする時間を分担。互いの休む時間を確保して過ごし、休業期間を終えた。子育てには夫婦の協力が欠かせないと実感し、家族の絆を強くするきっかけにもなった。
一方で、世間とのギャップも感じた。育休期間中、友人や知人から「良い会社だね」とよく言われた。取得が進む首都圏の大企業などに比べ、地方では育休を取れる環境がまだ普通ではないことを認識した。
県労働実態調査によると、県内の過去5年間の育休取得率はグラフの通り。男性の取得率は上昇傾向にあり、育休の分割取得や「産後パパ育休」の制度が創設された22年度以降は顕著に高まっている。しかし、女性の取得率に対しては5割にも届いていないのが現状だ。
23年度の調査で、男性の取得を進める上での課題として最も多く挙がったのは「代替要員確保など人員の不足」(83.1%)だった。人手が不足しても新たな雇用は難しい地方企業の実態がうかがえる。このほか「社内にロールモデルがない」(34.8%)、「男性労働者に取得の意識がない」(29.1%)が続いた。
父親の育児支援などに取り組むNPO法人ファザーリング・ジャパン東北(仙台市)の竹下小百合代表理事は、人員不足を補うには業務の効率化が欠かせないと指摘。「育休取得は企業が業務内容を整理するチャンス。人材を確保する際のアピールにもつながる」とメリットを語る。
石巻地方を含む県内の仙台市以外の地域の企業では、育休を取りづらい環境が根強く残っているという。竹下代表理事は「育児はゴールが見えるもの。長期的な視点で見れば、他の社員や組織自体の成長につながる」と経営者側の意識改革の必要性を説く。
中小企業の人手不足対策として、厚生労働省は両立支援等助成金の活用を奨励している。育休取得者の代替要員の雇用を後押しするコースがあり、23年度は県内で25件の利用があった。厚労省は子育てサポート企業の認定制度「くるみん認定」と合わせて活用を呼びかける。
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住宅資材やプレカット加工の山大(石巻市潮見町)では2022年度、男性社員が初めて育休を取った。前例がない中で取得を決めた経緯や、復帰後の働き方について聞いた。
<取得、当たり前の社会になってほしい>
開発生産部キャドキャム管理センターに勤務する吉田耕治さん(39)は22年9月、次女の誕生を機に10日間の育児休業を取得した。世間でも男性育休の認知が広がり始め「取れるなら取ってみよう」と考えた。社内初で不安もあったが、上司に意思を伝えるとスムーズに話が進んだ。
次女は予定日より1カ月早く生まれた。新生児集中治療室(NICU)から退院するタイミングで育休に入った。次女の体調に不安を抱えていた妻に「一緒にいてくれるだけでありがたい」と言われ、取得してよかったと感じたという。
買い出しや掃除、洗濯、妻が寝ている間の子守などを精力的にこなした。想像を超える大変さだった。「妻が抱えていた育児や家事の事を考えると、仕事で疲れたなんて言えなくなった」と振り返る。
育休を経て考え方も変わった。仕事のスケジュールを調整し、早めの帰宅を心がける。共働きのため朝は特に忙しい。現在は出社時間を30分遅らせ、次女を保育園に送ってから職場に向かう。
上司の千葉良子センター長も2人の子どもを育てる母で、時差出勤を利用する。「小さい子どもに向き合う貴重な体験は今しかできない。各家庭のベストなパターンに寄り添いたい」とエールを送る。
吉田さんにとって職場は、子どもの年が近い同僚との情報交換の場にもなっている。千葉センター長は「共働きの家庭では特に、男性の育児参加はとても大きい。パパの頑張りはママの励みにもなる」と歓迎する。
吉田さんは自らの経験を踏まえ「多くの人が取得して、男性の育休が当たり前の社会になってほしい」と期待する。
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