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コメ作り、未来を見据え 第10回オリザ賞受賞団体紹介

 第10回オリザ賞(JA宮城中央会主催、河北新報社・東北放送共催)の大賞にNPO法人鳴子の米プロジェクト(宮城県大崎市)が輝いた。準大賞には大郷グリーンファーマーズ(同県大郷町)と加美農高(同県色麻町)が選ばれた。中山間地の生産者と都市部の消費者を結ぶ活動や、環境負荷を抑えた有機栽培、持続可能な農業に向けた認証取得といった各団体の取り組みを紹介する。

山間地と消費者結ぶ 大賞「鳴子の米プロジェクト」(宮城・大崎市)

交流会で子どもたちに稲刈りを教える上野さん=9月28日、宮城県大崎市鳴子温泉

 たわわに実った稲に鎌を入れる子どもたち。刈り取った束は農家の人たちに教わり、昔ながらの天日干しにした。宮城県北部の大崎市鳴子温泉地区で9月、稲刈り交流会があった。

 鳴子の米プロジェクトは、農村風景を楽しみながら農作業の手間や作り手の思いを知ってほしいと、生産者と都市部の消費者をつなぐ活動に力を入れる。

 標高400メートル以上の鳴子温泉地区は小規模農家が多い。寒冷な気候で米作りに向かず、かつては収量、味ともに振るわなかった。

 2006年、大規模で効率的な農家を支援する国の農業政策が示された。米価の下落も続き、地区では離農や耕作放棄が進んだ。

 鳴子の農業と田園風景を守ろうと、地域の農家などが立ち上がり、プロジェクトを結成。耐冷性のある東北181号の試験栽培に挑んだ。後に「ゆきむすび」と名付けられたコメは寒さに強く、よく育った。もちもちとした食感で冷めてもおいしく、農家は希望を抱いた。

 プロジェクトは山間地の農と食の維持を目指し、消費者が買い支える仕組みを導入。「作る人」が再生産できる価格を提示し、価格と品質に納得した「食べる人」が予約購入をする。

 天日干しにした「くい掛け米」は60キロで約4万3000円。決して安くはないが毎年完売し、地域ぐるみで生産者を支えるCSA(地域支援型農業)の成功事例として注目を集める。

 大学生の卒業研究など、全国から多くの視察や農泊を受け入れてきた。関係人口の拡大や後継者の確保にもつながっている。

 理事長の上野健夫さん(65)は「これからも農と食の大切さを伝える活動を続け、山間地の持続可能な農業に挑戦していきたい」と力を込める。

[NPO法人鳴子の米プロジェクト]2006年9月設立。構成員は28人。農家10人が17ヘクタールでゆきむすびの特別栽培米を作付けする。労働力低減や無農薬化に向け、アイガモロボットの実証にも挑む。08年にNHK仙台放送局が制作したドラマ「お米のなみだ」のモデルになった。

有機栽培に堆肥を活用 準大賞「大郷グリーンファーマーズ」(宮城・大郷町)

刈り取った稲の実りを確かめる大郷グリーンファーマーズのメンバー=9月26日、宮城県大郷町

 「有機農業の実践による安全安心な農産物の生産」を経営理念に掲げる。全圃場で農薬を慣行の半分以下に抑え、化学肥料に代えて堆肥を施す。

 大郷グリーンファーマーズは長く資源循環型農業に取り組んできた。「土作りは人間でなく微生物が行うもの」と、堆肥の活用で有機物の循環を促す。

 稲わらを畜産農家の牛ふんと交換、平飼いで育てる自社の鶏のふんも生かして堆肥を作る。周辺の生物多様性を守るため、生態系への影響が大きい殺虫剤は使わない。

 主食用米を作付けする約50ヘクタールのうち6ヘクタールで有機JAS認証を取得。特別栽培米が出荷の8割を占める。取引先は仙台市の生協「あいコープみやぎ」やスーパー、直売所、飲食店など多岐にわたる。コメの食味は良く、ひとめぼれは2014年の「あなたが選ぶ日本一おいしい米コンテスト」(山形県の農協などが主催)の金賞に輝いた。

 地元の農家が作る野菜を集荷販売してきたが、2005年からは自社農場で栽培も手がける。

 耕作する農地計100ヘクタールのうち自社名義は5ヘクタール。95ヘクタールは地権者から預かる。取締役の西塚忠樹さん(39)は「若手を中心として持続性のある農業を続け、地域に信頼を寄せてもらっている証し」と胸を張る。

[大郷グリーンファーマーズ]1999年に有限会社を設立。2005年に農業生産法人化し、08年から有機農法に力を入れる。23年の作付け実績は稲作約70ヘクタール、転作大豆約20ヘクタールなど。年間売上高は約1億円。

GAP取得、環境へ配慮 準大賞「加美農高」(宮城・色麻町)

収穫した「加美農米」をPRする加美農高の生徒=10月2日、宮城県色麻町

 食品の安全性や労働環境、環境保全に配慮した持続的な生産活動を認証する「GAP(ギャップ)」。加美農高は認証制度を生かし、地域活性化や農業の課題解決につながる研究と実習に力を入れる。

 集落単位の営農や大規模なスマート農業が主流となり、担い手には生産性だけでなく、食品安全や農場経営、衛生管理といった知識・技能が求められる。新しい農業経営を考えられる人材育成がGAP取得の狙いだ。

 衛生管理を重視した校内設備の補修などを実施し、2020年に日本版のJGAP(ジェイギャップ)を取得。22年には、管理項目がより厳しいアジア版のASIAGAP(アジアギャップ)の認証農場となった。いずれも宮城県内の高校では初めて。県内の農業高で最大となる13ヘクタールの水田で、環境に配慮したコメ作りを実践する。JGAPが示す「生物多様性の把握」に沿った動植物調査では、希少なホトケドジョウやトウキョウダルマガエルの生息が確認された。田んぼに魚道を設置するなどして保全に努めている。

 農業科3年の早坂透眞さん(17)は「宮城がお米の産地と言われてきたのは農家の頑張りのおかげ。自分たちもスマート農業などの研究で『農業は大変』というイメージを変えていきたい」と話す。

[加美農高]生徒140人。農業、農業機械、生活技術の3学科がある。宮城県立の高校として1900年に設立された。73年に旧中新田町から色麻町に移転。町と連携し、コメの消費を促す活動にも力を入れる。

経営モデル確立の好例 講評・伊藤房雄審査委員長(東北大大学院農学研究科教授)

[いとう・ふさお]1958年岩手県花巻市生まれ。北海道大大学院農学研究科博士課程修了。東北大大学院農学研究科助教授などを経て2010年から現職。専門は農業経済学。22年7月から優れた農林水産業者をたたえる農林水産祭の中央審査委員会会長。66歳。

 今回は11団体から応募があった。いずれも特色がある中で、大賞に鳴子の米プロジェクトを選定した。気候条件が不利な中山間地域でもビジネスモデルを確立している好例である。

 経済規模は小さいものの都市部の消費者としっかり関係を築き、安全安心にこだわり、手間をかけて生産したコメの価値を伝え続けていることは県内農家の参考になる。若い世代が事務局に入るなど継続的な活動も期待できる。開始から19年の実績があり、オリザ賞が重視する「宮城のコメ作りの持続性」の観点でも高い評価となった。

 準大賞の大郷グリーンファーマーズは、有機栽培に対する強いこだわりを持って地域の堆肥を活用した土づくりに取り組み、「資源循環型農業」を構築していることが認められた。また、地元から多くの土地を委託されていることは信頼を得ている証しでもある。

 稲作と大豆と野菜のバランスの取れた安定経営を継続し、若い世代の採用と教育に力を入れていることも、次世代への技術の継承の点で評価される。

 もう一つの準大賞、加美農高は食品安全認証「JGAP」「ASIAGAP」を県内の高校で初めて取得したことが称賛に値する。先輩から後輩へ技術を継承しながら認証を継続していることも素晴らしい。

 田んぼの生き物調査を通じて希少な動植物を育む環境の保全活動や、米粉の活用など自主性を重んじた学習方針は、柔軟な発想ができる次世代人材の育成にもつながるだろう。

 3団体とも非常に優れた内容であった。応募のあった11団体ではいずれも宮城のコメ作りをけん引する人材が育っており、今後の新たな取り組みにも期待したい。

審査委員

伊藤房雄 東北大大学院農学研究科教授=審査委員長
一力雅彦 河北新報社代表取締役社長=副委員長
常陸孝一 宮城県農政部副部長
河野雪子 宮城県生活協同組合連合会副会長理事
岩城 彰 東北放送常務取締役
高橋 慎 JA宮城中央会常務理事

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