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農への思い、なお熱く 第1~9回オリザ賞受賞の軌跡

 第10回を迎えたオリザ賞は、これまでに25団体が大賞や準大賞、特別賞などを受賞した。うち大賞に輝いた第4回の角田市ふるさと安心米生産組合協議会(宮城県角田市)、第6回の岡田生産組合(仙台市宮城野区)、第7回の三田鳥(みたどり)営農組合(同県栗原市)を再び訪れた。

品質や食味、信頼を維持 第4回大賞「角田市ふるさと安心米生産組合協議会」(宮城・角田市)

「ふるさと安心米」の品質を確かめる三瓶さん=10月2日、角田市枝野のJAみやぎ仙南角田農業倉庫

 農薬に頼らないコメを手がけて35年。今年も「ふるさと安心米」が実った。

 角田市ふるさと安心米生産組合協議会は2006年、第4回の大賞に選ばれた。みやぎ生協(仙台市)と連携し、環境に配慮した産直米を消費者に届ける。

 1980年代、農薬や化学肥料を減らしたコメの集団栽培に乗り出した。周辺で散布される農薬の影響を受けないよう水田の集積を進め、10ヘクタール以上の集団栽培を条件とした。作業の効率化を図ろうと栽培方法もマニュアル化した。

 受賞当時、安心米の産直契約面積は全国最大級の1230ヘクタール。36組合の1000人以上が協議会に参加した。市内のコメ農家の半数に上った。

 生産者の高齢化や販売ルートの多様化で作付面積は半減したが、安全性や食味に対する消費者の支持は変わらない。生協のほか大都市圏のスーパーが販売。角田市の学校給食でも提供されている。

 長く大切にしてきたのは消費者と生産者の交流の機会だ。田植えや稲刈りを体験した子どもが成長し、家族を連れて参加することもあるという。

 協議会会長の三瓶隆一さん(64)は「使える農薬に制限があり、近年は肥料の価格も高騰しているが、お客さんがいる限りは続けたい」と力を込める。

[角田市ふるさと安心米生産組合協議会]1989年、市内の6生産組合で発足。大規模専業農家を中心に兼業、高齢農家と連携して集団栽培を展開してきた。現在の会員は32組合約360人。生産者が栽培方法や生産量について消費者、販売先と定期的に協議する。

みそ造り、復興の象徴に 第6回大賞「岡田生産組合」(仙台市宮城野区)

生みそ「岡田産づくり」のパック詰め作業をする組合員=10月2日、仙台市宮城野区岡田の岡田生産組合

 栽培したコメや大豆で生みそを仕込む。岡田生産組合の「岡田産づくり」は昔ながらの味が評判だ。

 2011年3月、東日本大震災による津波で、みそ造りを担当していた組合員の女性が犠牲になった。460ヘクタールの農地が浸水し、多くの仲間が自宅や農機具を失った。

 絶望の中、いち早く復興を目指した組合長の遠藤源二郎さん(79)。全壊したみその加工施設を内陸部に再建、被災の翌年に生産を再開した。無人ヘリコプターから直接田んぼに種をまく「直播(ちょくは)」を取り入れ、農作業の省力化を進める。

 12年、被災地で新しい農業の将来像を描く事例として評価され、第6回の大賞を受賞した。

 発酵を止める酒精などの添加物を使わず、丹精込めてみそを仕込む。東海林民子さん(64)は「仙台伝統の赤みそが懐かしいという声を聞く。多くの人に食べてほしい」と話す。JA仙台が運営する宮城野区の直売所「たなばたけ高砂店」で販売するほか、用地を貸す農家にも配る。

 コロナ禍で年5トンに落ち込んだ生産量は今年、6トンに戻った。目標は最盛期の10トンだ。遠藤さんは「みそ造りは地域活性化のために再開した大事な事業。今後も組合員が生き生きと働ける場所として続けたい」と語る。

[岡田生産組合]地域の景観を保持し、基盤整備を進める目的で1980年、前身の岡田水田協議会が設立された。上岡田、新浜、南蒲生など5集落の約280戸が加入し、40人の構成員で組織する。約480ヘクタールでコメや転作作付けの大豆、麦を栽培する。

株式会社移行を目指す 第7回大賞「三田鳥営農組合」(宮城・栗原市) 

新米の出荷準備をする柴山さん(左)と組合員ら=10月17日、宮城県栗原市若柳有賀の三田鳥営農組合事務所

 新米が入った袋を組合員が次々とトラックの荷台に積み込む。「今年は倒伏した稲が多くて苦労したが、良いコメが取れた」。ほころんだ顔に出来秋の充実感がにじむ。

 三田鳥営農組合は環境保全型農業を軸に住民が結束し、コメや大豆を生産する活動が評価されて2015年、第7回オリザ賞の大賞に輝いた。受賞後は県内外の土地改良区や営農組合が相次いで圃場、乾燥調整施設などを視察した。代表理事の柴山均さん(70)は「教えることより意見交換する中で学ぶことの方が多かった」と振り返る。

 水稲の作付面積は当時より2ヘクタール増え、約47ヘクタールでひとめぼれなど3品種を生産する。9割は農薬や化学肥料の使用を抑えた環境保全米だ。高齢化で組合員は5人減り30人になったが、19年からドローンを幅広く活用し、カメムシ防除といった作業の効率化を進める。

 担い手不足、生産費の高騰など農業を取り巻く環境が厳しくなる中、営農組合は今後3年をめどに株式会社へ移行する方針だ。素早い経営判断と外部からの雇用が可能になる。

 柴山さんは「『消費者においしいコメを届けたい』という思いはずっと変わらない。時代に合わせながら自分たちの手で地域農業を守りたい」と誓う。

[三田鳥営農組合]宮城県内初の「集落ぐるみ型」農事組合法人として2010年に設立された。生産規模は水稲が約47ヘクタール、大豆約14ヘクタール。23年に雑草対策で始めた発酵粗飼料(WCS)用稲が約6ヘクタール。大豆は外部に委託して納豆を作り、組合員に配布する。

地球的視野で稲作再生訴え 連載企画・キャンペーン「オリザの環」 

1996年10月27日の河北新報朝刊1面

 オリザ賞創設のきっかけとなったのが、1996年10月から97年6月まで計138回を掲載した河北新報の連載企画・キャンペーン「オリザの環(わ)」。過疎化や担い手の高齢化、市場開放を迫る海外の動きなど農家にとって厳しい状況が続く中、地球的視野で東北の稲作の再生を訴えた。

 取材は稲作発祥地の中国をはじめ東南アジア、西アジア、アフリカ、欧州など世界24カ国に及び、過酷な政治経済の中でコメ作りに励む人々の声をつづった。

 経済問題として語られがちなコメを人類共通の世界文化に位置付けた一連の報道は、1997年度に新聞協会賞、98年度に農業ジャーナリスト賞を受賞した。

[オリザ賞]オリザ(Oryza)はラテン語で「稲」を意味する。世界24カ国のルポを基にコメ作りの可能性を訴えた河北新報の連載企画「オリザの環(わ)」(1996~97年)の提言にJA宮城中央会が賛同し、創設した。「交流や地域づくりを軸にした開かれたコメ作り」の普及・促進が狙いで、3年に1回、選考・表彰している。

第1~9回の受賞団体 

【第1回】(1998年)
<地域づくりの部大賞>
 田尻町産直委員会(宮城県大崎市)
<交流の部大賞>
 JA角田市アジアの農民と手をつなぐ会(宮城県角田市)
<奨励賞>
 仙台マルチメディア環境教育研究会(仙台市)
【第2回】(2000年)
<交流の部大賞>
 宮城県国際農友会(仙台市)
【第3回】(03年)
<地域づくりの部大賞>
 宮崎かもかも倶楽部(宮城県加美町)
<地域づくりの部奨励賞>
 南方町水稲部会(宮城県登米市)
<交流の部奨励賞>
あ・ら・伊達な道の駅 米工房いわでやま(宮城県大崎市)
<特別賞>
シアトルマリナーズ佐々木主浩投手へみやぎ米を送る実行委員会(仙台市)
【第4回】(06年)
<大賞>
角田市ふるさと安心米生産組合協議会(宮城県角田市)
<特別賞>
首都圏コープ米栽培研究会(宮城県美里町)
【第5回】(09年)
<大賞>
栗原市瀬峰地区循環型農業推進会議(宮城県栗原市)
<準大賞>
耕谷アグリサービス(宮城県名取市)
丸森町産直ふるさと米部会(宮城県丸森町)
【第6回】(12年)
<大賞>
岡田生産組合(仙台市)
<準大賞>
アグリードなるせ(宮城県東松島市)
飯野坂ライスサポートセンター(宮城県名取市)
【第7回】(15年)
<大賞>
三田鳥営農組合(宮城県栗原市)
<準大賞>
宮城農高(宮城県名取市)
<特別賞>
たじりエコベジタブル(宮城県大崎市)
【第8回】(18年)
<大賞>
七ケ宿源流米ネットワーク(宮城県七ケ宿町)
<準大賞>
あきう生産組合(仙台市)
大崎の米「ささ結」ブランドコンソーシアム(宮城県大崎市)
【第9回】(21年)
<大賞>
登米総合産業高(宮城県登米市)
<準大賞>
若木(わかき)の里(宮城県大和町)
松山町酒米研究会(宮城県大崎市)

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