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子育てと介護の縁側・今日も泣き笑い(23) 夢のまにまに 否定せず、心に寄り添う

目はほとんど見えなくても、孫たちの声や触れた感覚から近くにいることを感じているようです
旧友と電話で会話するレツさん。物忘れを憂う友人に「人生いいことばかりじゃないから忘れたっていいのよ」と話していました

【石巻市・柴田礼華】

 ある木曜日、デイサービスから帰ってきた義母レツさんが、居間のソファに腰かけて「今日は塩釜の方に乗せられて行って、塩釜神社でお札をもらってきたのよ」と話し始めました。

 あまりに明瞭な語り口に「ほう、今日はデイサービスでお出かけしたのか」と一瞬信じそうになりましたが、デイサービスのスタッフさんからそんな話は聞いていないし、お便り帳にもお出かけのことは書かれていません。これはレツさんの脳内世界の話じゃないかなと推察しました。近くで一緒に聞いていた義父せんじいも変な表情をしています。レツさんは5年前に認知症を発症し、視力もほとんど残っていません。

■脳内世界を話す

 せんじいは奥の自室に行ってしまいましたが、レツさんの話は続きます。「あまちゃんも一緒に車に乗って行ったんだけど、1人で待たないといけない場面があって、じっと我慢してとてもお利口だったよ」とのこと。5歳の長女あま音は朝から幼稚園に行っていたので、やはりお出かけは脳内世界の話だと確信しました。

 何度も「お札をもらいに行った」「あまちゃんがお利口だった」と楽しそうに繰り返すレツさん。夕飯作りもおおむね終わり、少し気持ちに余裕ができた私はレツさんの話を否定せず、かといって過剰に付き合うのも偽善的に感じて、「あまちゃんも5歳になってぐんと成長してきましたよね」と相づちを打ちながら聞いていました。

 隣の部屋で1歳の妹しお音と遊んでいたあま音が居間に現れました。「今日おばあちゃんがあまちゃんとお出かけして、とってもお利口にしてたって褒めてくれているよ」と伝えると、行っていないお出かけの話が面白かったらしくケラケラ笑った後、レツさんに「ありがとう」と言いに行っていました。あま音も心得たもので、レツさんの脳内世界は否定しません。

 去年は下の子が生まれた反動でいわゆる赤ちゃん返りのかんしゃくをしょっちゅう起こしていたあま音がこの数カ月、精神的にずいぶん落ち着いてきたことを、レツさんも肌感覚で感じていたからこそ出てきた話だったのかなと思います。

■気持ちに余裕を

 認知症の症状で、夢と現実の境目があやふやになっているように見えるレツさんですが、出てくる言葉には何かしら理由があるような気がします。不安な気持ちが続くと、今いるところが自宅に思えなかったり、昼寝の夢の中で出てきたであろう、既にこの世にいない家族の今日の行き先を気にしたり。

 ヘンテコに聞こえる話も真っ向から否定せず、気持ちに寄り添える余裕を持っていたいなと感じました。とはいえ、忙しい時に「早くお家に帰りたいんだけど」と言われると「ここは10年住んでいるレツさんのお家ですよ!」と冷たく返してしまう自分にハッとすることも多々あります。

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