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震災で犠牲、石巻の愛梨ちゃん振り袖姿 絵で母と再会 愛知の画家が制作、贈る

晴れ着姿の愛梨ちゃんと笑顔で手をつなぐ美香さん(右)と小林さん

 東日本大震災で犠牲になった石巻市の幼稚園児佐藤愛梨ちゃん=当時(6)=が、振り袖姿で母美香さん(49)との「再会」を果たした。同市の成人式があった12日、愛知県田原市の画家小林憲明さん(50)が、20歳になった愛梨ちゃんを想像して描いた絵を美香さんに贈った。

 「大きくなった姿を思い描けなかったけど(自宅から幼稚園に)送り出したあの日以来、成長した娘に会えた」。会場前で小林さんの絵を、美香さんがいとおしそうに見詰めた。

 絵の中の愛梨ちゃんは濃紺と灰色の生地に花が描かれた振り袖を着て優しくほほ笑む。愛梨ちゃんの妹珠莉さん(17)と美香さんが柄を選び、小林さんに写真を送って描いてもらった。

 縦148センチ、横50センチ。麻布に油絵の具で描かれた。「成人式会場」の看板の隣で記念撮影した美香さんは「入学や卒業、成人と、式をたくさん重ねさせてあげたかった」。自身の20歳の頃に似ているというまな娘の晴れ姿に「こんなふうになっていそうだなとやっと思えた」と喜んだ。

 小林さんは震災以降、抱き合う親子など家族を描く作品作りに取り組む。これまで震災で被災した親子や、東京電力福島第1原発事故で古里を追われた家族らをモデルに約300点描いてきた。

 愛梨ちゃんは震災当時、乗っていた私立日和幼稚園(石巻市)の送迎バスが津波と後の火災に襲われて他の園児4人と共に亡くなった。小林さんはこの日、愛梨ちゃんと同じバスで犠牲になった石巻市の西城春音ちゃん=当時(6)=の遺族宅にも、振り袖姿の春音ちゃんの絵を届けた。

 小林さんは、亡くなった場所を訪れたり好きだった物を聞いたりして絵を完成させた。「この日を迎えられて良かった。正解がなくどんな表情にするか悩んだが、家族にほほえみかけるような表情を選んだ。彼女たちや家族の気持ちが少しでも楽になってほしい」と話した。

幼稚園時代の友達、遺影胸に成人式

成人式に参加した斎藤さんの手に収まる愛梨ちゃんの写真

 石巻市蛇田の会社員斎藤康成さん(20)は12日、私立日和幼稚園に共に通っていた佐藤愛梨ちゃん=当時(6)=の写真を携えて成人式に参加した。

 震災後は愛梨ちゃんの命日や誕生日に愛梨ちゃん宅を訪れてきた。訪問した際は仏壇に手を合わせたり、愛梨ちゃんの母美香さん(49)と話したりする。

 昨年のクリスマスに訪れた際にネックレスをプレゼントし、美香さんに「成人式に行く前に、愛梨ちゃんを迎えに行きたい」と思いを伝えた。美香さんから借りた写真を手に成人式に臨んだ斎藤さんは「幼稚園帰りの公園でよく一緒に遊んでいた。愛梨ちゃんも20歳おめでとうと伝えたい」と話した。

 美香さんは「すごくうれしかった。震災から13年もたっている中で、そう言ってくれるとは思わなかった。当たり前のように言ってくれて、ありがたくてしょうがない。愛梨はお友達の中で記憶に残っている子だなと思う」と感謝した。

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