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わいどローカル編集局 > 橋浦・女川(石巻市北上町)

 「わいどローカル編集局」は石巻地方の特定地域のニュースを集中発信します。26回目は「石巻市北上町橋浦・女川地区」です。

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【橋浦地区】イシノマキ・ファーム

<就労に悩む若者を支援>

 石巻市北上地区などで農福連携や担い手育成に取り組む同市の一般社団法人「イシノマキ・ファーム」は、就労の悩みを抱える若者の支援に向けた農村留学事業を展開している。学校や社会になじみづらいなどの事情を抱える16~38歳に、太陽の下で大地の恵みに触れることで自身の長所を再発見してもらい、自立した生活につなげる。

イケアのデザイナーが手がけた農村留学プログラム参加者の宿泊部屋。旧保育所の内装を生かしながら、壁面の色などを一新した

 農村留学の5日間の宿泊型プログラムでは、農業体験や地元農家への聞き取り、1次産業の課題解決に向けたディスカッションなどに取り組む。法人のホップやサツマイモの畑で除草や収穫作業などに汗を流すほか、農閑期はホップソルトや干し芋といった加工品の製造にも携わる。

 プログラム担当の池田新平さん(39)は「太陽を浴びて土に触れながら働けば、夜は自然と眠くなる。生活リズムの改善や心身の健康にもってこい」と話す。

 農家への聞き取りを通して1次産業の課題をまとめ、ディスカッションで解決に向けた道筋を探る。自らの意見を言葉という形にする経験を通して、参加者の自信を育むという。

 2022年からこれまで約70人が参加し、中には心の病に悩む人もいた。池田さんは「プログラムには、福祉の制度を利用できない人に向けたセーフティーネットの役割もある。なるべく早い段階で手を差し伸べることで、早期の社会復帰につなげたい」と言う。

 昨年2月、法人は旧橋浦保育所を活用する参加者用の宿泊部屋をリニューアルした。家具販売大手「IKEA(イケア)仙台」(仙台市)から家具約190点の寄贈を受け、同社デザイナーが内装も担当。ホップやサツマイモといった法人が育てる作物をイメージした色合いに一新した。

 池田さんは「普段と異なる環境で慣れない作業に取り組み、疲れたり緊張したりする参加者に安らいでもらえるような空間になった。プログラム後に社会で働き始める際、自身がリラックスできる生活空間づくりの参考にもしてもらいたい」と語った。

【女川地区】相内木工・大内宏毅さん(45)

慎重に木材を切断する大内さん。社名は旧姓の「相原」と、結婚後の現姓から1字ずつ取った

<特注家具製作、修理も対応>

 さまざまな加工機械が並ぶ工場で、木材を切削し、穴を開け、化粧板を貼るなど地道な手作業を積み重ねる。1人で幾重もの工程を経て、次第に家具がその形を現す。

 石巻市北上町女川の「相内(あいうち)木工」。代表の大内宏毅さん(45)が、店舗や一般住宅などそれぞれの設置場所に合わせた特注家具を製作している。

 主に手がけるのは、百貨店などで使われるレジカウンター、化粧品や衣料品の陳列棚、一般住宅や公共施設のげた箱や玄関のつり戸棚など。北上地区の白浜ビーチパークのいすとテーブルも担当した。「木製なら何でも作る」といい、修理にも対応する。

 福島市出身。アルバイト先だった仙台市の木工関係の会社に入社し、技術を身に付けたい-と亘理町や登米市の木工所と合わせて計18年間腕を磨いた。東日本大震災を機に妻の実家がある北上に移り住み、自宅そばで創業し6年半になる。

 依頼主の顔が見え、やりがいを実感する仕事が増えている。大切にしていたという婚礼だんすの扉の修理を頼んできた年配の女性は大いに喜び、お礼の年賀状まで送ってきた。「小さな仕事で想像以上に喜ばれ、この仕事の素晴らしさに気付いた」と振り返る。

 最近携わったのは、市北上中(生徒48人)合唱歌の歌詞板制作。縦2メートル、横3メートルの巨大な額を作り、生徒や住民が1文字ずつ彫った10センチ四方の板600枚をはめ込んだ。昨年12月に校舎で除幕されると拍手と歌声が響いた。「皆が苦労して彫った板が一つの作品になり、うれしかった」と笑顔を見せる。

 機械を譲ってくれた師匠や、かつての職場、地域との縁を感じながら、日々製作に励む。「作業は個人でも、仕事はチームプレー。人と人とのつながりを大切に、地道に長く続けたい」。使う人を思い、丹念な手仕事に励む。

【橋浦地区】栄屋食堂

店を切り盛りする佐藤さん(右)と恵美さん

<豊富なメニュー、心も満たす>

 石巻市北上町橋浦地区にある「栄屋食堂」は、豊富なメニューと、店主佐藤きよ子さん(72)のさっぱりした性格と笑顔の接客で、40年超にわたり地域に親しまれている。

 丼類、うどん・そば、ラーメン類、定食などのメニューは計約30種。毎日のように店を訪れ、みそラーメン(750円)や焼き肉定食(950円)といった人気メニューを注文する常連客もいる。

 「てんぷらをラーメンに入れて」「みそラーメンをみそチャーシューメンに」などの要望にも柔軟に応え、利用客のおなかと心を満たしてきた。「料理を作るのが好きで、お客さんの喜ぶ顔が見たいから」と佐藤さんは話す。

 昭和の雰囲気たっぷりの店内はカウンターとテーブルのほか、10人ほどが入れる座敷もあり、住民らが、旅行や同級会の打ち合わせなどに利用している。

 佐藤さんと夫正一さん(74)、長男の妻恵美さん(49)の3人で店を切り盛りしている。もともと1973年から、北上町の実家の両親と石巻市向陽町2丁目で食堂を営業していたが、「通うのが大変。自分の店も持ちたい」と83年ごろ、現在地に店を構えた。

 近くに市震災遺構大川小があるためか、最近は県外客も目立つといい「一期一会のもてなしを心がけている」と佐藤さん。「東日本大震災後は地域に住む人が減り、いまは物価高という苦境にある。でも、健康が続く限りは食堂を続けていきたい」と意気込みを語る。

 午前11時~午後2時。水曜定休。連絡先は0225(67)2762。

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 飯野川・橋浦販売店と連携し、漢人薫平、相沢美紀子、浜尾幸朗の各記者が担当しました。次回は石巻市立町・中央地区です。

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