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わいどローカル編集局 > 赤井(東松島市)

赤井地区のビニールハウスで収穫最盛期を迎えているイチゴ
ハウス内の温度や湿度などの推移を示すスマートフォンの画面。組合内で各農家のデータを共有している

 「わいどローカル編集局」は石巻地方の特定地域のニュースを集中発信します。25回目は「東松島市赤井地区」です。

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名産のイチゴ、スマート農業で生産改善

 東松島市矢本地区のイチゴ農家が、ビニールハウス内の温度や湿度などのデータをスマートフォンで常時把握するシステムを導入し、生産改善に役立てている。スマート農業の推進で近年の猛暑への対応や作業の効率化を図り、イチゴの品質向上につなげる。

 矢本地区では赤井、大曲の農家計6戸でつくる「やもといちご生産組合」が計1.56ヘクタールで「とちおとめ」「紅ほっぺ」などを栽培。11月ごろから翌年6月ごろまで仙台や秋田の市場に出荷している。

 組合の5戸が4年ほど前に導入したのが、農業資材メーカーの誠和(栃木県下野市)が提供する「プロファインダークラウド」。温度や湿度、日射量、二酸化炭素濃度などのデータをインターネット上に蓄積し、各農家がスマートフォンやパソコンで確認できる。

 各農家のデータを全員が共有することで、良質なイチゴを出荷した他者のデータを生産改善の参考にできる。阿部良之組合長(49)=東松島市赤井=は「組合の農家数が少なく、全員が各戸の生産環境を把握しているため、うまくシステムを活用できている」と説明する。

 組合によると近年、イチゴ農家が抱える最大の課題は、猛暑への対応という。システムの導入に当たっては、急激な気温の上昇や、光合成が進み過ぎて二酸化炭素が不足するなどの異常時にも素早く対応できるメリットも大きいという。

 阿部組合長は「組合が小規模なので生産量を一気に増やすことは難しいが、イチゴそのものの価値を高めることは可能。これまで勘や経験に頼っていた部分を可視化することにより、生産の改善や効率化を進めていく」と語った。

<若手農家の遠藤さん、篆刻も>

自ら収穫したイチゴを背に、河北賞受賞作の「断金契」を持って笑顔を見せる遠藤さん

 東松島市赤井の若手イチゴ農家遠藤厚さん(37)は、篆刻(てんこく)作家としての顔も持つ。農作業のかたわら制作に励み、第70回河北書道展の篆刻・刻字部門で「河北賞」を受賞するのほどの腕前だ。「篆刻を長く続け、技を突き詰めていきたい」と意欲をのぞかせる。

 指先に神経を集中させ、7センチ四方の篆刻石に、彫刻刀に似た「印刀」で字を彫っていく。完成まで1~3カ月かかるといい、「完成した瞬間の達成感がたまらない。紙に押して初めてわかる美しさがある」とその魅力を説明する。

 篆刻は石などに字を彫って印にする芸術分野。20歳ごろ、叔母から「書道の作品に使ってみて」と自身の名前が彫られた「落成款識」をプレゼントされ、その魅力に初めて触れた。ぶれなく、長く彫られた線の美しさに感動したという。

 小学3年から取り組む書道と並行し、24歳ごろから多賀城市の篆刻教室に通っている。どんな言葉を選び、どの書体で彫るかを一から学んだ当時を「カーブや長い線をうまく引けないこともあった」と振り返る。徐々に腕を上げ、現在もこつこつと研さんに励む。

 河南高(現石巻北高)と県農業実践大学校(現県農業大学校、名取市)で農業を学んだ。現在は両親のビニールハウスで手伝いに汗を流す。2、3月はイチゴの出荷最盛期のため農作業が最優先で、篆刻になかなか時間を割くことができないという。

 「多い日は800パックほどのイチゴを詰める。収穫は一つ一つ手作業。傷つけないように心掛けている」と遠藤さん。繊細さが求められる農作業と、惜しまず手間暇をかける篆刻。双方にはどこか通じるものがあるようだ。

あさひ食堂、震災から再起 避難先の味を継承

青森ゆかりのラーメンと豚焼き肉の「スタミナ丼」のセットメニューを紹介する洋子さん

 東日本大震災の津波で被災し、再起を果たした食堂が東松島市赤井地区にある。JR陸前赤井駅近くの「あさひ食堂」。避難先の青森県にあった人気ラーメン店から教わった秘伝の味を目当てに、ラーメン好きが足を運ぶ。

 食堂の人気メニューの一つ「支那そば」(720円)は、煮干しとサバ節のスープに細麺が絡む一杯。ほかにも、カタクチイワシの「焼き干し」や煮干しのスープを使った青森ゆかりのラーメンを提供する。「最後の一滴までスープを味わってくれるお客さんが多い」。店長の山田太一さん(54)は笑顔をのぞかせる。

 食堂は1970年、山田さんの両親が始め、多くの常連客でにぎわっていた。震災では、定川を逆流した津波が堤防を越え、店舗兼自宅が天井近くまで浸水。取り壊しを余儀なくされた。

 山田さんが母洋子さん(79)と身を寄せたのは、当時山田さんの弟が住んでいた青森県十和田市。学校給食センターに勤務する中、地元のラーメン店「青龍」に出合った。

 「支那そば」のおいしさに引かれ店に通ううちに、高齢の店主に後継者がいないと知り、味を継承したい-と頼み込んだ。2017年、赤井の自宅跡で食堂を再開するに当たり、十和田に通ってラーメンづくりを習得。満足できる味を出せるまで3年を要したという。青龍は22年に閉店した。

 「ラーメンがおいしいと言ってもらえるとやはりうれしい。教わった味を守っていきたい」と山田さん。震災前から人気だった焼肉などのメニューもある。営業は午前11時15分~午後2時、同5時~7時半。毎週火曜と月曜夜が休み。

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 赤井販売店と連携し、都築理、相沢春花が担当しました。次回は「石巻市北上地区」です。

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