人々は答えを求める <連載・コロナ下のウィーン(2)>

ブランドショップなどが立ち並ぶウィーン中心部=2019年8月

 オーストリアの病院に勤務する斎藤若奈医師(仙台市出身)に「コロナ下のウィーン」の医療や暮らしをつづってもらう連載記事の第2回。河北新報オンラインニュースの独自記事としてお届けします。

 現在、ウィーン(人口約200万人)での検査数は1日あたり20万件となっています(リンク❶)。ワクチン接種も進んできており、1回でも接種した人はオーストリア人口の20%を超えました(リンク❷)。

 それでも変異株による感染拡大が抑えられず、今回は集中治療室が比較的若年層でいっぱいになってしまい、ただいま4回目のロックダウンに入りました。検査数の増加もあって新規陽性者数は右肩上がりで、先日、5月初めまでさらなるロックダウン延長が決定されました。ただ、ここ数日ようやく減少に転じてきました=グラフ=。

 コロナの検査を素人が、しかも子どもが自分で行い、その検査結果が独り歩きすることに、私は医師として相当の抵抗感がありました。鼻の入り口をこすって陰性だったからと言って何の意味があるのか。「陰性だ、やった」とマスクを外してしまったら逆効果ではないか―。

 こちらの専門家もそれは考慮しているものの、目的は「大きな魚を逃さないことだ」と言っています。たとえ全ての陽性者を引っ掛けることができなかったとしても、少なくとも「スーパースプレッダー」としてたくさんのウイルスを出している人を早く見つけてさらなる広がりを防ぐことができるのではないかということです。

 最近、変異株の広がりとともに若年者での陽性者が増えてきていますが、これまでの無作為試験では学校(日本の小学校から高校に相当)での陽性率は0・39%(昨年10月)、1・5%(昨年11月)、そして今回3月は0・21%と、今までで最も低い値でした。

 変異株は無症状者が少ないのではないか、とも推測されています。これまで少ないながらも無症状陽性者を事前に見つけることができた一方で、30%は偽陽性でした。検査の正確性は年齢に比例していました。

 それでも当地の文部大臣はじめ関係者は、抗原検査は精度に欠けるものの、今回の試みで衛生観念が高まったし、テストを全くしないよりはよかった、と結論付けました(リンク❸)。とはいえ、ある学校で1回に63例の偽陽性が出てパニックになった、という事例も発生しています(リンク❹)。

 自己抗原検査は手軽にできるので「高齢の両親に会う前に検査をする」というようにも使われています。ちなみに、美容院に行くには「陰性証明書」が必要ですが、自己検査の結果は使えません。信頼性がそれ程高くない抗原検査にどこまで頼るかには議論があるところですが、やはり人は目の前の答え、陽性か陰性かという迅速な答えがあると、安心するようです。

 これに似た状況は、われわれはインフルエンザで経験済みです。抗原検査が手軽にできるため、人々は目の前の答えを求めて奔走します。それがさらに独り歩きして「症状はないけれど陰性証明書を出してほしい」というようになります。

 労力的にも経済的にも、医療者側としては不必要な検査は避けたい、と思っていました。そういう経験からすると、今回、日本で検査が普及しない原因の一つではないかと思い至ります。

 ただ、コロナはインフルエンザと違い、無症状の人が多数いて感染拡大の原因となっており、しかも症状が出る前に感染性のピークがあります(リンク❺)。

 なので、無症状の人も積極的に検査して感染の広がりを抑える、という考えは理にかなっているはずです。実際、こちらの入院患者は症状に関わらず入院時、2日後、5日後、その後1週間ごとに全員定期的にPCR検査します。面会者も抗原検査で陰性を確認し、しかも原則週1回としていますが、予期せぬ陽性がぽろっと出てきて、クラスター(感染者集団)発生という事態が度々起きています。そこまでしても、ウイルスはどこからきたのか説明ができないことがしばしばあるのです。
(ウィーン在住・医師・斎藤若奈)
=第3回配信に続く=

ウィーン中心部(グーグルアースより)
オーストリア国内の新型コロナ感染者数の推移
リンク❶、ORFのサイト
リンク❷、ワクチン接種状況の情報を提供するオーストリア・社会省のサイト
リンク❸、抗原検査に対する文部大臣のコメントなどを伝えるORFニュース
リンク❹、偽陽性についてのニュースを伝えるORFニュース
リンク❺、感染性を比較したヤフーニュースの記事
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