復興五輪の理念かすむ 「別世界」地元冷ややか 被災3県の聖火リレー終わる

閖上のコースを走る聖火ランナー。左奥は名取市震災メモリアル公園の慰霊碑=21日午後3時45分ごろ、名取市

 東京五輪の聖火リレーは21日、宮城県内での開催を終え、東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手、福島を含む被災3県を一巡した。計9日間の日程は無難に消化されたものの、大会理念の「復興五輪」は新型コロナウイルスの脅威を前にかすみつつある。「コロナに打ち勝った証し」という看板に書き換えられた祭典が1カ月後に迫り、被災者から冷めた声が漏れた。(報道部・土屋聡史)

「スポーツに罪はないが」

 「皆さん、笑顔で応援してください!」。気仙沼市最大の災害公営住宅に19日、カラフルな先導車のアナウンスが響く中、踊り場にたたずむアルバイト尾形清人さん(71)は無表情のまま隊列を眺めていた。

 震災後の住まいが県内の出発地となったが、感慨はない。「地域で仕事がどんどん減っている」。復興需要の底が見えつつある状況で復興五輪を叫ぶ違和感を拭えず、「大会は盛り上がるのか」と首をかしげた。

 リレーはその後、市中心部の内湾地区に向かった。沿道で観覧した自営業男性(70)は「外見はぴかぴかの街並みができたが、中からは悲鳴が上がっている」と内実をこう言い表す。

 復興のハード事業がほぼ終わり、地元経済を支える水産業や観光業は厳しい地域間競争にさらされている。「スポーツに罪はないが、外側だけを切り取って『復興を発信』と言われてもね」とつぶやいた。

「東京『の』五輪」

 街並みはおろか、道路の整備も完了していない石巻市雄勝地区。観光施設に勤める大和田恵美さん(52)は、市中心部でリレーが行われている最中も、黙々と事務作業をこなしていた。

 当日の朝、市内でリレーがあるのを知った。「『雄勝を走るのかな』と一瞬思ったけど、『道もできていない場所を走るわけないか』と思い直した」と寂しげな表情を浮かべた大和田さん。「東京五輪は東京『の』五輪。別世界です」

 東松島市野蒜の無職栗原正之さん(66)は「聖火は地域の営みに関係ない。そもそも現状は復興じゃなくて復旧だ」と身をもって感じている。

 震災で妻と両親を亡くし、現地再建した住宅に1人で暮らす。「無理に盛り上げなくていい。『静かに暮らしている。そっとしておいてくれ』って感じだ」。騒がしい音を立てて上空を旋回するヘリコプターを見やった。

 「当初のイメージと違う」。都市ボランティアに登録している仙台市の70代男性は、開幕まで1カ月を前に辞退を検討している。

 コロナ一色に上書きされ、国民が復興について考えられる環境にないと言う。「都合のいいときだけ『復興』と口にする人たちを見ると、むなしくなる。この五輪はどこに向かうんだろう」。疑問や矛盾が浮かんでは消える。

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