歓声なき夢舞台 マスク姿で入場行進

東京五輪の開会式で旗手の八村塁(手前右)と須崎優衣(同左)を先頭に入場行進する日本選手団=23日夜、国立競技場

 異例ずくめの祭典が幕を開けた。

 この1年はアスリートにとってあまりに長かった。ようやくたどり着いた舞台を、誰もがかみしめるように歩いた。

 日本選手団の旗手はバスケットボール男子の八村塁(ウィザーズ、宮城・明成高-米ゴンザガ大出)が担った。堂々とした足取り。まっすぐなまなざし。「日本中が誇り高く思えるようなプレーをしたい」。選手たちのマスク越しの笑顔が胸を打つ。しかし、無人の観客席に視線を移す度、現実に引き戻される。

 関係者だけのスタンド。選手が手を振る先はカメラレンズ。歓声が聞こえない中、行進用にアレンジされたビデオゲームのテーマ曲だけがスタジアムに反響する。祝祭ムードを演出しようという必死さ。ドラマの撮影現場を見ているかのような違和感が漂った。

 観客なしでもスポーツは成立するが、高揚感や熱気を共に感じることはできない。テレビ観戦で事足りるなら、この巨大な箱は要らない。

 1964年大会も開幕前は冷ややかな目で見られていたという。開幕すると世上は一変した。人々は感動を共有し、スポーツが心を豊かにすることを知った。

 今大会は病禍の前に全てがひれ伏している。観客のいない自国開催の五輪は、海の向こうの五輪と変わらない。街も、スタジアムも、熱狂とは遠い。

 この日の東京の新規感染者は1359人。今なお、中止論は鳴りやまない。まばゆくともされた聖火が、これから始まるアスリートの躍動が、不安をかき消してくれるだろうか。
(佐藤夏樹)

東京五輪の開会式で聖火台に点火し、トーチを掲げるテニス女子の大坂=23日午後11時50分ごろ、国立競技場(高橋諒撮影)
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