デルタ株、見えてきた四つの特徴 3回目接種の必要性も浮上 <連載・コロナ下のウィーン(6)>

ウィーンのシンボル的存在のシュテファン大聖堂付近=21年7月27日

 オーストリアの病院に勤務する斎藤若奈医師(仙台市出身)に「コロナ下のウィーン」の医療や暮らしをつづってもらう連載の第6回。河北新報オンラインニュースのオリジナル記事としてお届けします。

すっかり夏休みモード

 7月初めから学校が2カ月間の長い夏休みに入りました。働いている親にとっては大変な時期でもあります。オーストリアでのコロナの新規患者数はぐっと落ち着いており(図1)、皆「待ってました」とばかりに夏の旅行を計画して、交代で休みを取っています。

 「コロナに罹患(りかん)済み」「ワクチン接種済み」もしくは「検査で陰性」の人を対象に旅行やレストランなどに入るのを許されるEU共通の「緑のパスポート」も何とか機能しているようです。

 ちょうどヨーロッパでは感染が下火になったところでタイミング良く1年延期されていたサッカー欧州選手権も開かれ、イタリアの優勝で大いに盛り上がりました。オーストリアも準々決勝でスペインと互角に戦ったため、オーストリア国民は大変満足して終わりました。

図1)オーストリアでの新規陽性者数を示すグラフ。ぐっと落ち着いたが、規制緩和や人の移動の増加に伴ってわずかだが増加傾向にある(オーストリア政府機関のサイトより)
買い物客らでにぎわう、マリアヒルファ通り=21年7月14日

接種済みの人が陽性に

 しかし、人の移動や接触が増えにつれて新規感染者数が再び増え、コロナウイルスは世界中で急速にデルタ株に置き換わっているようです(図2、3)。

 具体的な事例としては、スコットランドでは約2000人がサッカー欧州選手権関連でコロナ陽性となったと報告されています。

 オーストリアでは、1年以上閉まっていたナイトクラブ(若者が多く集まるディスコのような所)が7月から再開しましたが、瞬く間に7カ所でクラスター(感染者集団)が発生し、接触者は数千人に上るとされています。

 オーストリアの夏の風物詩である「ザルツブルク音楽祭」も開幕しましたが、開幕初日の会場にいた1人が翌日にコロナ陽性と診断されたと報道されました。しかも予防接種が済んでいた人でした。今後はマスク着用を義務付けて開催を継続するそうです。

図2)世界各国のデルタ株の割合。新規陽性者のほとんどを占めるようになっている(アルジャジーラより)
アルジャジーラのウェブサイト
図3)オーストリアでの新規陽性者はあっという間にデルタ株に変わった=横軸は21年の週番号、縦軸は陽性者数(スタンダードより)
スタンダードのウェブサイト
サッカー欧州選手権での感染を報じる記事(BBC)
ナイトクラブで発生したクラスターのニュース(クーリエ)
ザルツブルク音楽祭での感染についての記事(ユーロニュース)
街中にある抗原検査場に一定の間隔を空けて並ぶ人々

ワクチン有効性、64%に下方修正

 今、感染が急激に広がっているのは、ワクチン接種がそれほど進んでいない若年層(図4)であるのも各国で共通しているようです。ただ、ヨーロッパにおける今回の感染の波で今のところ特徴的なのは、新規感染者数増加の急カーブに対し、入院患者数と重症数はあまり増えていない、と言われていることです(図5)。

 イギリスでも、これを理由としてマスク着用の義務も撤廃され、規制緩和がどんどん進められています。ただし、オーストリアやイギリスでは、陽性者でも軽症者は自宅療養する例が多いことには留意しなければなりません。

 ワクチン接種が最も進んでいるイギリスやイスラエルでもデルタ株による新規感染者数はものすごい勢いで増えています(図6)。イギリスでは既に約8割の人が抗体を持っているとのデータがあるにもかかわらず、です。イスラエルではファイザーのワクチンは95%デルタ株の感染を防ぐとされていましたが、その後64%に訂正されました。

 つまり、ワクチンを接種していてもデルタ株の感染は抑えきれない、ということです。

 ただ、接種していることで入院や重症化といったリスクは両国で確実に下がっているようです。

図4)オーストリアでの年齢別新規陽性者の推移。7月からの再増加は、若年層で占められている(クーリエより)
クーリエのウェブサイト
図5)イギリスの今回の波(赤線)は前回の波(青線)と比べ、新規陽性者の増え方(左端)は同様であるのに対し、新規入院者数(左から2番目)、総入院患者数(中央)、人工呼吸を必要とする患者数(右から2番目)、死亡者数(右端)はあまり増えていない(フィナンシャルタイムズより)
フィナンシャルタイムズのウェブサイト
図6)イギリスでの新規感染者数。ワクチン接種が最も進んだ国であるにもかかわらず、今回かなり急なスピードでデルタ株の感染が進んでいる(BBCより)
BBCのウェブサイト

致死率は低く、入院率は高い?

 ワクチンなどの影響があるので単純な比較はできないものの、単に致死率をアルファ株とデルタ株で比較すると、デルタの方が低いとイギリスのデータからは言えます。しかし、スコットランドからの報告では、デルタ株の方が、アルファ株よりも入院が必要になる率が約2倍であるという報告もあります。

 まだデータが不足していて、一致した見解はありません。インドやインドネシアで入院できずに病院前で酸素を求めて横たわっている人々の様子を見ると、デルタ株の方がずっと危険な印象を受けます。

 この不一致をどう見るべきか。感染の広がり方や致死率は、恐らくそれぞれの地域の生活環境による密の状況や、ワクチン接種率に伴って大きく異なるということです。

イスラエルでのファイザーワクチンの効果低下について伝えるロイターの記事
デルタ株の方が要入院となる率が高いことを示す医学雑誌ランセットの記事
感染拡大の懸念が広がり屋内ではマスクの着用義務が残ることになった=ウィーン市内のスーパー

感染力は1・5倍

 デルタ株に関してこれまでに分かっている事は①アルファ株より感染力が約1・5倍高い②完全ではないがワクチンで感染を抑えられる③ワクチン接種により重症化を抑えられる④ワクチン接種率が高い地域では致死率の低下が期待できるが、ワクチン接種率が低い地域では爆発的感染を起こし医療崩壊につながる危険がある―です。

 すると今後の対策としては、まだワクチン接種が済んでいない若年層に接種を進めていくこと、一方で既にワクチンを接種した成人や高齢者も6~9カ月でワクチンの再接種が必要となってくると思われます。

 今後、子どもへの接種をどう進めていくかは悩ましいところですが、小児は重症化することは少なくても、罹患後の回復が遅い症例(Long COVID)があるという報告も出ています。

 大事なのは、ワクチン接種が進んでもマスク着用や3密対策が引き続き重要ということであり、地道に対策を続けつつ、接種をなるべく滞りなく進めていくことではないでしょうか。

デルタ株の特徴についてのリポートを掲載するエールメディスンのウェブサイト
子どもが罹患後に回復が遅い症例があることのリポートを掲載する米国立衛生研究所のウェブサイト
街にはヨーロッパからの観光客が戻ってきた=21年7月27日

「今が一番きつい」

 最初の図にもあるように、オーストリアではかなりコロナ感染が抑えられて患者さんも一つの病院に集約されました。世の中はまるでコロナ禍が終わったかのような雰囲気で、私の心も軽くなっていました。

 そんな時、コロナ集中治療室で働く友人と話すと「今は入院患者さんは若い人ばかりで、実はコロナが始まって以来、今が一番きつい」と言うのを聞いてはっとさせられました。

 グラフのカーブや数を見ると大したことのないように感じてしまったりしますが、それでも現場では毎日24時間、苦労が続いています。さまざまな方面で患者さんのために働いている方々に心からの敬意をあらためて表したいと思います。

斎藤若奈(さいとう・わかな) 1973年生まれ。仙台市出身、山形大卒。専門は呼吸器・感染症。長崎大学病院、仙台医療センター勤務などを経て、国際結婚を機に、現在はオーストリア・ウィーン在住。出産、育児をしながら2016年にオーストリアでも医師免許を取得し、20年からウィーン市の公立病院で研修医として再出発。言葉と文化の壁に毎日ぶつかりながらも、家事育児に協力的な夫と子供2人に支えられ奮闘中。

ショッピングエリアのマリアヒルファ通り
ウィーンの市庁舎前では屋外映画祭が開かれている=7月27日
にぎわいを取り戻しつつあるウィーンの街
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