コーヒー好きの、大人びた16歳の少年が病気でこの世を去った。行きつけは宮城県白石市福岡の喫茶店「58(こや)コーヒー」。お盆を迎え、店主の根本剛さん(47)はジャージー姿の少年との日々を思い出す。
市郊外の水田が広がる福岡地区。店の近所に住む武田歩さんが来たのは2年前の夏だった。
「コーヒー、いいですか」。中学3年生はそう言って入ってきた。「コーラならないぜ」。どちらかと言えばこわもての根本さんが言っても物おじしない。「コーヒー好きなんです」
聞けば小遣いは月1000円と言う。店はホット1杯300円で提供しているが、それでも中学生には高い。「金は要らない。初任給もらったら最初の1杯5000円な」との根本さんの計らいで、学校帰りに立ち寄るのが日課となった。
中学生ながら深入りの苦く濃い味を好んだ。テスト終わりは「酸味が欲しい」とも。店を始めた直後の時期で客は少なく、暇な根本さんにすれば「おいしい」と言ってくれるだけでありがたかった。注文に応え続けるうち、根本さんは「店が出したいコーヒーでなく、客が飲みたいコーヒーを出そう」と思い、店頭にメニュー表を置かなくなった。
歩さんが自宅で全身のけいれんに襲われたのは、白石工高生としての新生活が始まった昨年4月。悪性の脳腫瘍。医師は親に病名と余命を告げた。歩さんは闘病生活に入り、店に来ることができなくなった。
父の久さん(58)によると、歩さんは市内で入院中の昨冬、タブレットで地図を見ながら「店に行きたいなあ」と語った。「病院では飲みたくない」とテークアウトはしなかった。治して「自分で行く」と決めていた。
病と闘いながらも、今年3月までは意識がはっきりしていた。一時帰宅の際には担任に「1年生からやり直す」と留年する意向を伝えている。復帰できると本人は固く信じていた。
息を引き取ったのは6月27日。人けのなくなった通夜の場で、根本さんはコーヒーをドリップした。ひつぎの前で、ラフな黒のTシャツを着て、店と同じスタイルでコーヒーをカップに注いだ。
7月18日、久さんが来店した。根本さんから聞く息子の話は初耳の事ばかり。親の前では見せない一面を知ることができた。
歩さんが好きだったコーヒーを口にする。苦いけど飲みやすい。「大人の苦いと中学生の苦いは違う。大人よりワントーン落とした苦さ」(久さん)。背伸びする少年にその差は分からなかったろう。子ども扱いせずに、息子のオーダーに応えて配慮してくれた根本さんの気遣いがうれしい。
久さんがカウンターに置いたのは5千円札。「歩の分じゃない。遅くなった開店祝いだから」。札はカウンターをしばらく行きつ戻りつし、最後は根本さんが折れた。その両目はすっかり潤んでいた。
お盆が来る。「テークアウトはやんだって言ってたからな」。根本さんは若い常連客の墓前に出向き、コーヒーを入れる。深いりの苦いのを。
(白石支局・岩崎泰之)
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