仙台・母子心中 いじめの「重大事態」判断に甘さ 調査部会検証大詰め

女子児童が「しにたいよ」と書きつづった両親宛ての手紙。学校は「重大事態」と捉えなかった

 仙台市泉区寺岡小2年の女子児童へのいじめを苦に母親が女子児童と無理心中したとみられる事件で、市いじめ問題専門委員会の調査部会の検証作業が、大詰めを迎えている。女子児童や家族がいじめを訴えたにもかかわらず、いじめ防止対策推進法の「重大事態」と捉えなかった学校側の対応を巡り、部会では批判的な意見が相次いでいる。これまでの議論を整理する。
(報道部・伊藤卓哉)

仲直りの会は「失敗」

 事件を巡る経過は表の通り。2018年5月17日、学校は両親から相談を受け、女子児童へのいじめを把握した。その6日後に担任が開いたのが、女子児童と加害児童を和解させる「仲直りの会」だった。

 遺族は女子児童が「無理やり握手をさせられた」と訴えていたと主張。学校側は部会の聞き取りに「無理やりではない。促したら手を出した」と証言し、事実認定には至っていない。

 だが、多くの部会委員は仲直りの会を「解決方法として安易」と問題視する。市いじめ防止基本方針は「関係修復の場」を設けるよう定めるが、「児童生徒への聞き取りなどを終えた後」と条件を付けている。

 ある委員は「いじめの実態把握が不十分で、対応は深まりを欠いた」と批判。別の委員は「いじめは(被害者と加害者の)関係が対等でない。無理やり水に流せば被害者の不満につながる」と逆効果を指摘する。

 6月21、22日の登校時、女子児童と加害児童の間で再びトラブルが発生した。大半の委員は仲直りの会が「失敗」だったと見る。

 遺族によると、女子児童は夏休み明け前の8月24日、両親への手紙に「しにたいよ」「いじめられてなにもいいことないよ」とつづった。驚いた母親は同日中に手紙を校長に届け、自殺の恐れがあると訴えた。

 推進法は自殺を企図するなど心身に重大な被害を受けた場合を「重大事態」と定め、すぐさま第三者機関による調査を始めるように学校や市教委に求める。だが、学校側は夏休みの宿題が手紙の理由と受け止め、重大事態と捉えなかった。

 学校側への聞き取りでは、校長が「宿題をしたくないから書いたの?」と尋ねたのに対し、女子児童が頭を8回下げてうなずいたとの証言もあったという。

 心身の重大事態に該当するかどうかは、部会内でも意見が割れている。ただ、多くの委員が学校側の「認識の甘さ」には強く憤る。

 児童の発達に詳しい委員は9、10歳未満の子どもに論理的、客観的な思考は不可能と説明。当時8歳の女子児童の手紙は「内容が主観的で、いじめがつらいことは事実だ」と指摘した。

 推進法は、年間30日を目安に相当な期間欠席した場合も「重大事態」と定義する。女子児童が亡くなった18年度の欠席日数を巡っては、学校側が「28日間」、遺族が「30日を超える」と主張し、認識が食い違う。

 遺族に返却された通信簿は欠席日数に二重線が引かれ、30日間から28日間に訂正されていた。市教委は誤記載の修正と説明するが、遺族は「重大事態にしないためだ」と不信感を抱く。

 部会は学校の出欠扱いに首をかしげる。母親の車で学校に来た女子児童が、車中に残ったまま帰宅した日を「出席」としたことが一例。委員の一人は「不自然な登校記録」と指弾した。

 その上で「30日間はあくまでも目安。早期に対応すべきだった」との意見が大勢を占め、答申書で「不登校重大事態」と認める方針を固めた。事件後も「重大事態に当たらない」と繰り返し主張した学校、市教委の責任を厳しく追及する。

「子どもの意見表明権」の保障提言へ

 寺岡小のいじめ問題を検証する調査部会は、答申書に盛り込む再発防止策の中で「子どもの意見表明権」の保障を市教委に提言する方向で検討している。1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」で定められ、国内でも近年は権利擁護の機運が高まる。

 寺岡小のケースでは「仲直りの会」を経た女子児童と加害児童が登校時に再びトラブルとなったため、学校側は双方の保護者に提案し、別々に登校させることにしたが、子どもたちの意見は聞かなかったという。

 部会委員の一人は女子児童が小学2年だったことを踏まえ「この年齢の子どもは自分の気持ちを言葉にしたり、事実を客観的に伝えたりすることができない」と指摘し、子どもの意見を周りの大人がしっかりくみ取る必要性を強調する。

 部会長の小野純一郎弁護士は「子どもの意見を聞かず重要な決定をした場面がいくつかあった。答申時期は明言できないが、いじめの被害児童と加害児童、双方の主張を聞いた上で決めることが望ましいと、答申書に書きたい」と語った。

 市内では2014年9月以降、いじめを苦にした男子中学生の自殺が3件相次ぎ、それぞれの第三者委員会が事実関係を調査し、再発防止策を提言してきた。

 女子児童の遺族は「第三者委は毎回、素晴らしい答申を出しているが、教育現場が無視しているように感じる。今回の答申も十分な検証と意義ある提言を求めるが、何より学校での実践を期待したい」と話した。

寺岡小の対応を巡り、議論を交わす小野部会長(右)=6月2日、仙台市役所

[仙台・母子心中事件]2018年11月29日、仙台市泉区で寺岡小2年の女子児童=当時(8)=と母親が自宅で死亡しているのが見つかった。女子児童へのいじめを苦に母親が無理心中を図ったとみられる。泉署は19年3月、殺人の疑いで、母親を被疑者死亡のまま書類送検した。市教委は同月、第三者機関の市いじめ問題専門委員会に事実関係の調査、学校対応の検証など3項目を諮問。下部組織の調査部会が遺族や学校関係者への聞き取りなどを進める。

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