リモートワークが決心させた地方移住 一歩踏み出せる環境整備を

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秋田市の自宅でリモートワークを始めた赤須さん

700キロ離れる

 午前9時、秋田市のマンションの一室。会社員赤須貴子さん(47)が自宅でパソコンの前に向かう。「出社」の時間だ。

 勤務先は堺市のシステム開発会社「ワイズ・ラブ」。倉庫や工場で一時保管中の資機材や製品を管理する自社開発システムの営業を担当している。

 約700キロ離れた職場とはリモートでつながる。職場の様子はカメラを通じてリアルタイムで見ることができ、会話もできる。「ほぼほぼ出社していたときと変わらずに仕事ができている」と言う。

 秋田市出身の赤須さんが古里に戻り、リモートワークを始めたのは6月。高校卒業後、進学で県外に出て東京、大阪でソフトウエア開発の仕事に就き、16年前、今の会社に入った。

 「秋田に帰りたい」。元来、都会暮らしが好きではなく、ずっとそう思っていた。だが、なかなかかなわなかった。

 秋田県がUターン希望者を対象に開いた就職相談会を頼ったこともあったが、「年齢で駄目だったり、首都圏からの移住希望者が対象だったり…」。そうこうするうちに月日が流れた。

 動きだすきっかけはコロナ禍だった。当時住んでいた大阪市の自宅で、リモートワークを余儀なくされ、出社は月1日という状態が続いた。社長から思わぬ言葉を掛けられる。「これを機に秋田に戻ったら」

 秋田への思いは社内でも知られていたが、冗談だと受け流していた。その後も「いつ帰ることにしたの?」「物件決まった?」と水を向けてくる。「社長は本気だったのか」。そうとあれば腹は固まった。

 5月、秋田での新しい住まいを決めた。仕事は営業のまま。取引先との商談もリモートで行う。古里に戻り4カ月たつが、堺市の本社に出社したことは一度もない。

交付第1号

 コロナ禍とともに急速に普及したリモートワーク。東京一極集中への批判と感染リスクへの不安も広がり、都会で働くことに疑問を抱く人々が増えた。

 政府はリモートワークによる地方移住を推進し、一極集中の是正と地方再生の青写真を描く。人口減にあえいできた地方自治体も起死回生の好機と捉える。

 全国最速ペースで人口減が進む秋田県は本年度、リモートワーク移住者への支援金制度を新設した。国も同様の支援制度を設けているが、対象は東京、埼玉、千葉、神奈川からの移住者に限られている。

 秋田県は首都圏以外からの移住者にも支援の枠を広げた。大阪市から移った赤須さんは今月、交付第1号に決まり、家賃補助などが受けられるようになった。

 「制度を知ったのは移住を決めてからで、移住できたのは会社と同僚の理解と協力があったから。なければ無理だった」と赤須さん。「移住したい人はもっといると思うけど、一歩踏みだすには社内の理解を得られるような環境を整えないと。このままだと一過性で終わってしまう」
(秋田総局・馬場崇)

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