対コロナ、日本と欧州の違い(上) 再びロックダウン、ワクチン接種義務化へ<Web寄稿>

ロックダウンに入る直前のウィーン中心部=11月20日午後
マルチン・ピエトラシケビッチさん

 新型コロナウイルスの流行に見舞われた欧州。厳しい都市封鎖実施や積極的な検査体制を構築しながら、感染の抑制には未だ成功していません。仙台市在住で、最近までオーストリアの公立病院でコロナ患者の治療にも携わった医師のマルチン・ピエトラシケビッチさんに、「対コロナ」の日本と欧州の違いについて寄稿してもらいました。河北新報オンラインニュースのオリジナル記事としてお届けします。

【寄稿のポイント】
・医師数やICUベッド数の多さなど発達した医療システムを持つオーストリアは、死者数や超過死亡数から見るとコロナ対策は一定の成功を収めてきた
・オーストリアは「世界で最も検査をする国」と言える
・ここ数週間は爆発的な感染増加が起こり、再度のロックダウンや来年2月からのワクチン義務化が決まった

 オーストリアは人口約900万の中央ヨーロッパに位置する小さな国です。2020年2月末にパンデミック(世界的大流行)がイタリアから広がってきた際、この国が直面する問題の大きさを想像することは誰もできませんでした。

隣国の惨状に衝撃

 国境からそう遠くないイタリア北部のロンバルディア地方で、想像を絶する光景が起こりました。高齢者を中心に何千人もが亡くなり、棺おけを町から運び出す軍のトラックの映像はオーストリアの政治家を驚かせました。当時、弱冠33歳だったセバスチャン・クルツ首相率いる政府は、20年3月16日に最初の厳しいロックダウンを決定しました。

 スーパーマーケットを除く全ての商店、レストラン、カフェは閉鎖。ホテル、劇場、美術館、映画館なども閉鎖され、スポーツイベントはキャンセルされました。それ以来、感染者数は世界の他の地域と同様に波のように増減し、20年11月と12月、21年4月と今年の夏までに計3回のロックダウンが続きました(図1)。

 20年12月27日には医療従事者へのワクチン接種が始まり、すぐに全国民対象となりました。政府はワクチンとともに、とにかく検査をして陽性者を早期発見し、隔離することが重要だと位置付けました。検査体制を急速に拡大したことで、世界で最も検査数が多い国の一つとなりました(図2)。21年夏には感染数は非常に少なくなり、クルツ首相はパンデミックの終わりを発表しました。

図1)オーストリアにおける20年4月から現在までの新規陽性者数(赤線)と、感染性のある患者数(青線)の推移。3回のロックダウン後、今夏には大流行は終わったかに見えたが、4回目のロックダウンに入った。クーリエ紙のウェブサイトより
図2)20年1月以降、世界各国でどのようにコロナ検査数が増えてきたかを示すグラフ(人口1000人に対する1日あたりの検査数)「Our World in Data」より

ワクチン接種を義務化

 しかしここ数週間、オーストリアの新規陽性者数は爆発的に増加。政府は11月22日から再度ロックダウンすることを決め、22年2月からは、ワクチン接種を全ての人に義務付けることを発表しました。

 どうしてこうなってしまったのでしょうか。

 パンデミックが始まって以来、約1万3000人が新型コロナ感染症で亡くなりました。12月7日時点で人口100万当たり約1430人の死亡に相当します。それは、現時点でオーストリアが欧州でコロナ対策に成功している国の一つであることを意味します。

 チェコでは人口100万当たり3155人が亡くなり、イギリスは2170人、スペイン1900人、スウェーデン1500人、米国2391人です。

 ちなみに日本は145人に過ぎません。コロナによる死亡の定義は国ごとに異なります。陽性なら死因とするのか、陽性であっても他の死因とするのかといった違いがあります。亡くなった全ての人がコロナの検査を受けているわけではないという批判を加味しても、人口当たりの死者数は、ウイルスの活動性と政府の措置の有効性について比較的信頼できるパラメーターです。

「超過死亡数」は欧州で中位

 パンデミックの影響を示す別のパラメーターは「超過死亡数」です。過去5年間の平均と比べ、1年間にどれだけ多くの人が亡くなったかを示します。ただ、超過死亡数は、新型コロナによるものでない死、例えばロックダウンにより他の病気の治療が遅れたり、自殺(COVID―19対策による間接的被害と言えるかもしれません)を区別できなかったりという欠陥もあります。

 住民10万当たりの数で示されますが、オーストリアは154人とヨーロッパでは中ぐらいです。スペインは234人、イタリア280人、チェコ333人、ロシア699人で、これまでよりも、多くの人が亡くなっています。日本は13人です。

各国の超過死亡数を示す英エコノミスト紙のウェブサイト

世界で最も医師が多い国

 オーストリアの医療制度は、これまでパンデミックに比較的対応できていました。人口1万当たり48人の医師を擁し、世界で最も医師が多い国の一つ(日本は21人で半分以下)です。また、ICUの数に関しても世界の上位3か国に入り、ベッドは10万人当たり29あります(日本では、10万人当たり5)。重症者が増えてICUが満員になるとの懸念がありましたが、実際にはいっぱいにならず、必要な患者はトリアージなしにICUに入ることができています。また、軽症の場合はほとんどが自宅療養となっています。他のいくつかの国のように病院に患者が集中する事態は回避できました。これは社会制度、組織、ボランティアの大規模なネットワークがあるためです。

 なぜオーストリアは、発達した保健システムを持っているのでしょうか。一つ目は、オーストリア社会民主党(SPÖ)が長い間政権を握っていたため、社会システムの構築に多額の投資が行われてきたからです。所得税は非常に高く(最大48%)、付加価値税(日本の消費税に相当)も20%と日本より高いです。このため高額の医療費だけでなく、発達した社会システムも賄うことができます。

ほとんどが公立病院

 病院の約80%が私立である日本とは対照的にほとんどが公立であり、大都市ではそれらがネットワーク化されていて相互に協力します。ベッド数を拡充しなければならなかった時も、民間病院(主にカトリック教会が所有)が協力し、急性期を過ぎた患者を受け入れました。

 しかし、別の理由もあります。人々の元々の健康状態があまり良くないため、より多くの医師とICUが必要です。平均寿命は日本よりわずかに低いだけですが、オーストリア(他の多くのEU諸国も含め)の人々は、はるかに若くして慢性の病気になります。

 健康寿命は、継続的な医療に頼らず自立して健康に生きる期間、つまり最初の慢性疾患が始まるまでの平均年齢を示しますが、オーストリアは女性57・1歳、男性57歳です(図3)。スウェーデンの女性の健康寿命はオーストリアよりも16年高く、日本は18年高くなっています。

 このことは、オーストリアの人々の方がより多く肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病に苦しんでいることを示します。心血管疾患(心臓発作、脳卒中)やがんのリスクを高めます。このため、ICUの病床数を増やさなければなりませんでした。

図3)EUの統計局「ユーロスタット」による健康寿命の比較。2016年のデータより

治療は得意、予防は苦手

 生活習慣病の人が多いオーストリアは、日本人よりも重症の新型コロナ感染症にかかりやすいと言えます。誤った食生活、喫煙習慣、運動不足の結果であるだけでなく、予防医学が不十分だった結果でもあります。オーストリアは治療医学は非常に得意ですが、予防は苦手です。日本の人々が元々健康的であることは新型コロナ感染症の重症化を防いだと思います。

 日本とオーストリアの医療費は、国内総生産(GDP)のそれぞれ10・9%と10・4%でほぼ同じですが、支出の重みは異なります。日本は世界で1000人当たりの病床数が最も多い国ですが、医師数とICU病床は比較的少ない。それが今年の夏の医療切迫の一因となりました。

 各国は、パンデミックと戦うため少しずつ異なる戦略を持っていました。英国のような一部の国は、経済をより強力に保護したいと考えており、ロックダウンの導入に消極的でした。ボリス・ジョンソン首相自身がコロナにかかり集中治療室で治療を受けなければなかった時になって初めて状況の深刻さに気付きました。しかしその時までに、多くの人が不必要に亡くなりました。=下に続く=

マルチン・ピエトラシケビッチ(Marcin・Pietraszkiewicz) 1970年、ポーランド生まれ。1999年、ウィーン大学医学部卒業。救急医。熱帯医学も修めた。最近までオーストリアの首都ウィーンの公立病院で働き、コロナ患者の治療に携わった。現在は仙台市在住。

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