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フルーツティー、お菓子、人形、店名… 「の」中国で人気なの?

 「中国の商品にひらがなの『の』がよく使われていると聞きます。なぜ?」。西日本新聞(福岡市)の海外特派員が読者の調査依頼に応える「あなたの特派員」にこんな疑問が寄せられた。確かに北京の街を歩くと、日本にも進出したフルーツティーのチェーン店「奈雪(なゆき)の茶」をはじめ、さまざまな製品のパッケージや看板で「の」を見かける。中国の人々や中国で長く暮らす日本人に流行の発端を尋ねて回ると、あの飲み物の存在が浮かび上がってきた。

日本にも進出したフルーツティーのチェーン店「奈雪の茶」=北京

一番なじみある日本の文字

 北京市中心部のコンビニエンスストアを巡り、商品名に「の」が付いた中国産の商品がどれくらいあるか調べてみた。優の品撮(グミやマシュマロ)、福の丸(アイスクリーム)…。各店舗に10品目前後ある。商品の一つを手に取っていた女性(39)が「日本語を勉強したことはないけど『の』は一番なじみのある日本の文字。何となく高級感がある」と教えてくれた。

 日本からの輸入品でもないのに、日本語の「の」を商品名に使うのはなぜか。中国の広告業界関係者は「日本の製品は高品質、安全、健康にいいという印象が根強い。商品名や看板に『の』という文字を交ぜるとイメージが良くなる。消費者に日本製と誤認させるために『の』を使う企業もある」と打ち明ける。

商品名に「の」が入ったナツメとクルミのお菓子

いつごろから流行?

 「の」はいつごろから流行したのか。

 北京市内の男性会社員(27)は「私の記憶では2000年代の初めには既に流行していた。携帯電話やインターネットが普及する中で、親たちに内緒でやりとりする火星文(火星語)として使っていました」と振り返る。火星文とは中国語に発音が近い日本語、ハングル、アルファベット、符号などを組み合わせた暗号文。「『の』は中国語の『的』と同じ意味なので使い勝手がいい」という。

 円高で日本人の海外旅行がブームになった1980年代後半から、香港で日本人観光客を引きつけるために「の」を使う店が急増したという説や、2010年代に「進撃の巨人」など日本のアニメが中国の若者たちの間で人気となり、「の」ブームに拍車がかかったという説もある。

商品名に「の」が入った人形=新疆ウイグル自治区カシュガル市

火付け役は「午後の紅茶」

 火付け役として最も有力なのが、01年に上海で発売されたキリンビバレッジの「午後の紅茶」だ。日本での宣伝と同様に、オードリー・ヘプバーンをCMに起用。「午后紅茶」という中国語の商品名と日本語表記をパッケージに併記し、現地のビールと同じ価格帯で売り出して高級ブランド化に成功した。その大ヒットとともに「の」が評判に。04年には広東省広州や北京でも販売され、大都市を中心に「の」が急速に浸透したという。

 昨夏に実施された「日中共同世論調査」で、日本に「良くない」印象を持つと答えた中国人の割合が大幅に増え、66%に上った。ただ、記者自身がこの1年半ほどの中国国内での取材や暮らしで、日本人だからと不愉快な対応をされたことはほとんどない。かえって温かく接してくれる人が多く、日本への好印象が広く根付いていると感じてきた。

 今年は日中国交正常化50周年。日本の文化や製品のファンが中国に多い証しである「の」が、今後も新たな商品や看板に使われていくことを願っている。
(西日本新聞社提供)

中国語に交じって、ひらがなの「の」を使ったネイルサロンの看板=北京

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