日本語学校、退学したら賠償金300万円? 元留学生から疑問の声
「コロナ禍で学費が払えず、退学しようとしたら賠償金300万円を請求されそうになった」。宮城県内の元留学生の女性から、日本語学校の対応を問題視する声が「読者とともに 特別報道室」に届いた。高額の賠償金は留学生を自由に退学させないためとみられ、専門家からは「留学生の弱い立場に付け込んだ人権侵害だ」との声が上がる。
コロナ禍で学費払えず
30代のベトナム人女性は2020年11月に留学ビザを取得して入国後、仙台市青葉区の日本語学校に入学した。日本語を2年間学び、将来は日本で介護の仕事に就く夢を描いた。
夢は出足でつまずいた。新型コロナウイルスの感染拡大でアルバイト先の飲食店が時短営業を強いられ、収入は想定を大きく下回った。約40万円あった貯金も半年ほどで底を突いたが、学校側からは2年目の学費50万円の支払いを求められた。
学費を払えず、就労のために退学の意向を伝えたのは昨年6月。学校側は賠償金をちらつかせ、勝手な就労を認めないと反対した。
河北新報社は、この際のやりとりを記録した音声データを入手した。「経済的に厳しく貯金もない」と苦境を訴える女性に、学校側は「そういうことなら帰国するしかない。就労とか他のビザに変更した場合は300万円を請求する。就労ビザに変えてもいいと思っているなら間違いだ」と詰め寄った。
女性が入学時に署名した誓約書は1枚。「勝手に留学ビザから就労等他のビザに変更しない」の記載があり「違反した場合には300万円の損害賠償金の支払いに応じます」と書かれている。
専門家「弱い立場付け込んだ人権侵害」
賠償金規定を設けるのはなぜか。校長は取材に「就労目的で留学ビザを取得し、すぐに退学して就職することを防ぐためだ。就労ビザなどに変更されれば学校経営は成り立たなくなる」と説明。ただ「実際に請求するケースがない」として規定を既に廃止したことを明かした。
女性は学校を除籍となり、現在は県内で就労している。
賠償金に関しては、日本語学校の関係者から問題視する声が出ている。ミッドリーム日本語学校(東京)の山田貴彦校長は「賠償金規定はやりすぎ。学生が追い詰められ、長時間労働をしたり借金をしたりして無理に学費を工面する状況を生む可能性がある」と指摘する。
外国人問題に詳しい指宿昭一弁護士(第二東京弁護士会)も「留学生を賠償金で縛り付けるのは人権侵害だ。コロナ禍で留学生の入国が制限される中で学校経営が苦しいかもしれないが、学費の支払い時期を遅らせるなど学び続けられるように支援するべきだ」と語る。
(佐藤駿伍)
留学生、19年に31万人 受け入れ側の意識改革急務
日本への留学生は、2008年に政府が発表した「留学生30万人計画」を受けて急増した。文部科学省によると、11年に16万人だった留学生は19年に31万人に増え、計画を1年前倒しする形で目標を達成した。
増加の伸びが特に大きいのは所得水準の低いベトナムからの留学生だ。11年に4000人程度だった同国出身者は20年には約6万2000人にまで増加した。
明治大情報コミュニケーション学部の根橋玲子教授(コミュニケーション学)は「30万人計画が安価な労働力確保の手段となった面は否めない」と指摘。就労目的というフロントドアからの入国とは異なる留学生の受け入れ制度を「移民のサイドドア」と例える。
低賃金労働を担う留学生の置かれている立場は厳しい。多額の借金をして入国し、日本語学校にも入学金や授業料などを納入。経済的に苦しい上に、留学ビザが更新されなければ強制送還されるという恐怖とも闘わなければならない。
悪質なブローカーやブラック職場に食い物にされるケースもあり、根橋教授は「留学生の自己責任と切り捨てるのは酷だ。外国人を安価な労働力と見なす日本側の意識を変えるとともに、リスクを含めた留学生への注意喚起が必要だ」と話す。
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