「汐凪ちゃんかも」そっと土をかき分ける 若手記者、帰還困難区域での捜索に同行
東日本大震災の津波で福島県大熊町の自宅が被災し、家族3人を失ったいわき市の木村紀夫さん(56)は、遺骨の一部しか見つかっていない次女の汐凪(ゆうな)ちゃん=当時(7)=の捜索を続けている。「捜索を伝承の場として若者に参加してほしい」という紀夫さんが伝えたいことは。河北新報社の若手記者が震災報道の使命をつなぐプロジェクトで、記者6人が帰還困難区域での捜索に同行した。(福島総局・佐々木薫子)
原発事故で置き去りにされたのでは
自宅があった熊川地区は東京電力福島第1原発事故に伴う汚染土の中間貯蔵施設の敷地内。ここで5年前に汐凪ちゃんの顎の骨の一部、今年1月に右大腿骨(だいたいこつ)が見つかった。2月25日、許可を得て立ち入った。
コツッ。鍬(くわ)の先端が何かに当たる。もし汐凪ちゃんだったら-。傷つけないように土をかき分ける。
「小学1年生の体。指の先の骨なんて小っちゃいからね」。紀夫さんは土の塊一粒一粒を指でなぞる。かけらひとつも見逃したくない。父の手だった。
あの日、汐凪ちゃんは熊町小の授業を終え、隣の児童館にいた。駆け付けた紀夫さんの父王太朗(わたろう)さん=当時(77)=の車で自宅に向かう途中、津波に遭ったとみられる。王太朗さんの遺体は2011年4月、この近くで見つかった。
放射線量が高かった11年11月、紀夫さんは独力で行方不明の汐凪ちゃんの捜索を始めた。使命感しかなかった。次第にボランティアも手伝い、16年12月に顎の骨が発見された。
紀夫さんの心中は複雑だった。原発事故の直前、発見場所の近くで捜索中の消防団員が「声を聞いた」と証言していた。団員は退避を迫られた。「2人が置き去りにされたのでは。原発事故がなかったら」
この場所で知り得たことを伝えたい
紀夫さんは今、太陽光パネルを設置した自宅で電気を買わずに暮らしている。
もし、記者が同じ立場だったら-。紀夫さんのように事故を恨み、電気を当たり前のように使って生きてきた自分に苦しむかもしれない。古里を案内する紀夫さんの後ろに、廃炉が進む原発が見えた。
「汐凪ちゃんはどんな子でしたか」。問い掛けに紀夫さんは言葉を詰まらせつつ、彼女が車いすの同級生のお世話役だったと教えてくれた。誰かのためになれる優しい子だった。
紀夫さんは捜索活動の体験を通じて、次女に起きたことを「自分ごと」として捉え、津波からの避難が遅れた同じ過ちを繰り返さないでほしいと願っている。
「見つけてやりたい。でも見つからないことで命を守る伝承の場として成り立つ。それは汐凪の意志なのかな」。一様ではない心境がにじんでいた。
汐凪ちゃんが息づくこの場所でしか知り得ないことがある。多くの人に伝えたい。この体験も「未来の子どもに伝えたい」という紀夫さんの思いも。
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東日本大震災の発生から13年。あの日を知らない若い世代が増える中で、命を守る教訓を伝え継ぐために何ができるのか。震災後に河北新報社に入社した記者たちが、読者や被災地の皆さんと一緒に考え、発信していきます。
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