<「86」を継ぐ 広島 原爆の記憶> (2)観光周遊 被爆の実相、復興たどる

 広島に原爆が投下された8月6日は、広島で「86(はちろく)」と呼ばれる。自らの体験として86を知る被爆者の平均年齢は84歳を超え、記憶の継承が喫緊の課題となっている。7月28日から11日間、広島市主催の国内ジャーナリスト研修に参加した。伝承の現場などを取材し、東日本大震災の被災地が得られるヒントを探った。(報道部・山老美桜)

自転車で被爆建造物などを巡る「ソコイコ!」のツアー

 木漏れ日が降り注ぐ遊歩道を、電動アシスト自転車に乗ったツアーの一団が駆け抜ける。

 途中、男性ガイドが自転車を止めて後続の客に話しかける。

 「ここは広島電鉄の車庫。原爆投下後3日で、広島の焼け野原を路面電車が走ったんですよ」

「ピースツーリズム」を推進

 広島市の観光業mintが企画する「sokoiko(ソコイコ)!」ツアー。広島市の平和記念公園を出発し、市内の被爆建物や被爆樹木など5~10カ所を市のシェアサイクルなどで巡っている。

 ツアーは同社が2017年に始めた。代表の石飛(いしとび)聡司さん(42)は「1本の映画を見るように巡るのがコンセプト。戦前から戦中、戦後復興の歩みを実際にたどってもらっている」と語る。

 広島市は被爆建物などを巡る観光を「ピースツーリズム」と呼び、積極的に発信している。

 英語で「平和」と「観光」を組み合わせた造語。民間と連携して市内を巡るルートを紹介している。

 元々は外国人旅行者向けの事業だった。16年、オバマ米大統領の歴史的な訪問により、欧米系の旅行者が急増。同年の外国人旅行者は118万人と、12年の3・2倍に膨れ上がった。しかし、訪問先は原爆ドームなど一部スポットに限られた。

 「原爆ドームだけでなく、周辺の被爆建物や資料館などを巡って平和の思いを共有してほしい」

お好み焼き店もルートに

 広島市は17年にピースツーリズム推進懇談会を設置して議論を重ね(1)被爆建物(2)被爆前後の文化・文学(3)市民生活の復興(4)被爆に関する資料館-の四つをテーマとして取りまとめた。

 被爆の実相のほか、復興を遂げた現在の姿も五感で感じてもらうため、徒歩やバス、自転車でゆったりと巡る六つのコースを例示。繁華街を歩いて名物のお好み焼き店を訪れるルートもあり、学び一辺倒にならないようにも工夫している。

 新型コロナウイルス禍で外国人観光客が激減した20年以降は、国内観光客をターゲットに据える。若い世代の誘客を図るイベントや情報発信の強化を進め、広島や身の回りのさまざまな「平和」を写したフォトコンテストも実施する。

 戦争や災害の跡地をたどる観光は「ダークツーリズム」と呼ばれ注目が高まっているが、悲惨な歴史を観光資源化することには抵抗感も根強い。広島市でも16年、原爆ドーム周辺にイルミネーションをともした際は「鎮魂の場にふさわしくない」と批判を受けた。

 それでも広島市は原爆被害者団体や被爆体験証言者の意見を聞きながら一つずつ課題を乗り越え、平和の意味を考えるツーリズムに未来を託す。

 広島のある伝承関係者は、東日本大震災の被災地における同様のツーリズムの広がりに期待を寄せる。「震災の遺構には、一人一人が津波から命を守らなければならないという強烈なメッセージ性がある。被災者の気持ちに寄り添いながら受け入れを進めてほしい」

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