命と地域を守る報道に役立てたい 震災後入社4人の合否はいかに?<チャレンジ防災士(1)>
災害発生時だけでなく、平時から防災リーダーとしての役割を担う「防災士」の民間認証制度が20年目を迎えた。東日本大震災をはじめ局地的な豪雨、河川の氾濫といった自然災害が頻発している現状を背景に、資格取得を目指す人が年々増加する傾向にある。命と地域を守る報道に役立つのではないかと思い立ち、震災後に記者になった入社9~1年目の若手4人が防災士にチャレンジした。(コンテンツセンター・藤沢和久、盛岡総局・横川琴実、石沢成美、報道部・坂田奈緒子)
初日
防災士になるには大学や自治体、民間企業が開催する養成研修講座を受け、さらに試験に合格する必要がある。費用や時期を考えた末、4人は東北福祉大で10月9、10日に受講した。
初日は3連休の中日にもかかわらず、仙台市宮城野区の同大仙台駅東口キャンパスには集合時間の朝8時半、約200人の受講生の姿があった。会場を見渡すと学生や防災服を着た自治体職員、自主防災組織のリーダーなど職種、年齢層は実にさまざま。
受講生の一人、JR岩沼駅に近い宮城県岩沼市の亀塚団地町内会から来た菊地香代子さん(66)は「町内会に防災士が不在になったため挑戦した。学んだことを避難訓練などに生かしたい」と意気込んだ。
災害史に始まり、地震・津波のメカニズム、気象情報の読み解き方、自主防災活動など授業が計6時間半あった。避難所運営の科目では、各自が机上で小学校の指定避難所運営をシミュレーションした。
体育館に十分な避難スペースを確保しつつ男女の更衣室や要配慮者、外国人の対応を考える。パソコン教室や危険物が少なくない理科室は避難者に開放することができない。「施設をあらかじめ確認して平時から決めておく」(高橋英彦講師)必要がある。
「将来は避難所運営に携わる」。小学校教諭を目指す宮城教育大2年伊藤美冬さん(19)は小学2年の時に遭った震災で、避難所運営に奔走していた恩師の姿を将来の自分と重ねる。
「津波や水害のメカニズムなど知らないことだらけだった。とはいえ知識を身に付けただけではどうにもならない」。合格の暁にはボランティアなどで経験を積もうと思っている。
2日目
2日目は朝から6時間の座学を受けた後、夕方に試験があった。出題範囲の25項目には、2日間の授業で扱われなかった知識も含まれる。そうした部分は事前にテキストで学び、初日にあらかじめリポートとして提出してあった。
設問は計30問で、全て三者択一方式。合格ラインは8割(24問)以上。試験開始の直前は多くの人がテキストやノートを見返し、真剣な表情で復習していた。
2日間の日程を終え、宮城県松島町総務課の樋口祥大さん(23)は「防災担当の自治体職員としても、住民の一人としてもいい経験になった。災害が発生したときはもちろん、事前の段階から準備し、防災・減災につなげたい」と振り返った。
結果は約2週間後の10月末、郵送で4人のそれぞれ自宅に届いた。全員が無事合格。うち1人は「全問正解」だった。消防などが主催する救命処置講習を受け、修了証とともに日本防災士機構に提出すると、晴れて防災士として登録される流れになっている。
[メモ]防災士の資格取得にかかる費用は講習実施団体によって異なり、受験料や登録料などと合わせて約4~6万円。自主防災組織や町内会役員を対象に受講料を補助したり、独自の講習会を開いたりする県や市町村もある。年4回開講する東北福祉大の場合、資格取得費用は計4万円。連絡先は同大地域創生・ボランティア支援室022(301)1183。
活気ある会場、そして最後に緊張の試験
小学3年の時、親に勧められ地元東京の消防ボランティア団体に所属した。メンバーには防災士の肩書を持つ人が多かった。就職する前から資格取得を意識していたが、学生時代はコロナ禍もあって実現に至らなかった。
会場に着き、事前に取り組んだ穴埋め式の課題を受け付けにまず提出した。講座の3、4週間前にテキストと一緒に家に届き、全277問とかなりボリュームがある。
「日本の国土面積は、地球上の陸地の約『 』に過ぎない…」。テキストを見ながら順に解答を記入していく。日頃から原稿をため込む傾向がある私は、講座の前夜までこの課題と格闘した。学生時代、宿題を先延ばしにしていた記憶がある方は注意が必要だ。
2日間で計12こまの講座は災害メカニズムに始まり災害医療、防災対策などと多岐にわたった。
大きく分けて仕組みが二つある地震のうち、津波をもたらすのは活断層型ではなくプレート型。「防災士として正しい知識を身に付けて。誤った情報に惑わされないように」との講師のメッセージが心に残る。
避難所はこれまでひとくくりに考えていたが、授乳する女性や障害がある人の就寝スペースなど、さまざまな立場の避難者を想定した部屋割りが必要になるとも教わった。指名された受講生が資格取得の目的などを発表する場面もあり、会場は活気ある雰囲気に包まれた。
2日目のラストに緊張の試験が待ち受けていた。自信を持って解答できる設問もあった一方で、悩んだ設問も多かった。終了後にテキストを見返すと、地震保険の設問などいくつかミスをしていた。合否が気掛かりで、先輩と答え合わせをしながら帰路に就いた。
2週間後、合否通知を受け取った。合格できると思ってなかったので、封を開けた瞬間に思わずガッツポーズしてしまった。今回の挑戦で得た知識と経験を生かし、多発する災害や避難情報など防災に関わる記事を分かりやすく、正確に書けるようになりたい。(2022年入社・坂田奈緒子)
救命処置講習で増す防災リーダーの自覚
防災士資格を得るには養成研修講座に加え、胸骨圧迫(心臓マッサージ)の手順など救命処置講習を修了する必要がある。8年前に新入社員研修の一環で講習を受け、取材で火災や事故の現場に出向いたことはあるが、正直に言うとよく覚えていない。仙台市消防局が9月中旬に開催した講習会に参加し、一から学び直した。
講習会は市消防局の委託を受けている市防災安全協会(青葉区)の事務局を会場に開かれた。「押し込む深さは単3乾電池1本分の5センチ。ペースは1分間に100~120回」。市消防局OBの協会職員千葉保さん(64)の指導を受け、練習用の模型に胸骨圧迫を施す。
1、2、3…、意外とできそう、と思いかけたところで注意を受けた。「絶え間なく、しっかり戻して」。焦る余り、押し込んだ胸部を戻しきる前に再度押していた。30回を3セット繰り返しただけで汗ばむ。
市消防局によると、119番から救急車到着までの時間は平均8分54秒(2021年)。災害時は交通渋滞や要請の殺到でさらに時間がかかる。心臓疾患の救命率は1分遅れるごとに10%ずつ低下するとされ、居合わせた市民の対応が命の鍵を握る。
この日受講した男女7人の中には勤務先の勧めで参加した人もいた。インフラ関係企業に勤める青葉区の成瀬知仁さん(41)は「胸骨圧迫は思ったよりも力がいる。いざという時、流れを忘れずに対応できるよう定期的に参加したい」と気を引き締めた。
プログラムは自動体外式除細動器(AED)の使い方、コロナ禍の留意事項など計3時間。救命現場で取るべき行動をおさらいする中で、自分が二次災害に巻き込まれないかなど周囲の安全確認を忘れた。
防災リーダーにふさわしくない失態だ。「実践できる自信がない」と落ち込んでいると、市消防局救急課の堤弘幸さん(46)がアドバイスを三つくれた。
119番すれば、指令室の職員から電話口で指示を受けられる。市が提供しているスマートフォン用アプリ「救命ナビ」を使うと必要な対応を動画で確認できる。救命講習を2、3年おきに受けることで技能を維持できるという。
堤さんは「居合わせた人が行動した結果、傷病者の呼吸が戻った例は少なくない。勇気を持って一歩踏み出してほしい」と呼びかける。(2014年入社・藤沢和久)
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東日本大震災の発生から13年。あの日を知らない若い世代が増える中で、命を守る教訓を伝え継ぐために何ができるのか。震災後に河北新報社に入社した記者たちが、読者や被災地の皆さんと一緒に考え、発信していきます。
みやぎ地域安全情報
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