生活者の視点で事前復興 陸前高田・武蔵野美和さん<先輩に聞く・チャレンジ防災士(2)>
東日本大震災後に河北新報社に入った若手記者4人が10月、防災士資格に挑戦した。試験には無事合格したものの、肝心なのは得た知識を報道や日常生活にどう生かせるかだ。東北で活躍する防災士3人に、資格取得を目指したきっかけや、仕事や生活への活用法を聞いた。
岩手県陸前高田市の武蔵野美和さん(58)は、震災をきっかけに2014年に防災士を取得した。消防庁の「災害伝承10年プロジェクト」の語り部も務め、全国各地で震災の経験や命を守る知恵を伝え続ける。「生活者の視点」で防災意識を広める意義を聞いた。(盛岡総局・石沢成美)
―震災の記憶を教えてください。
「高台にある自宅で、立っていられないほどの揺れを感じました。災害の知識はほとんどなく、テレビがつかない、水も出ない、と慌てました」
「当時は中学校のPTA会長で、震災で犠牲になった会員に義援金を送る手続きをしました。誰かが亡くなったと聞くのがつらく、疲れ果てた先生たちを見ても何もできませんでした。現実逃避のために避難所で朝から晩まで炊き出しのボランティアをしました」
―その後、防災士を取得した理由は。
「もっとできることがあったのでは、としばらく自分を責めていました。災害から立ち上がろうという空気の中で、困っている人のために何かしたいと思い、まず手法を学んで説得力を付けようと防災士を受験しました」
「今は月1回ほど語り部や防災講話をしています。震災の経験から、地域に住む先輩に災害の話を聞いてほしい、災害時ほど想像力を研ぎ澄ませてほしいと伝えています」
―防災に関する発信で心がけていることは。
「防災士の模範解答を見せることほど、怖いことはありません。例えば避難の際、渋滞を避けるため車は使わないでと教える人もいます。ただ足が悪いから早めに車で避難する、地域でタクシーを手配する、など答えは人それぞれ。自分ごととして考えてもらうようにしています」
人の命を思いやる
―災害に備え、普段からできることは。
「防災講話で一度だけ知識を学んでも、忘れてしまうことがあります。日頃から好きなお菓子を持ち歩いたり、新聞で皿を作ったりなど、生活の知恵そのものが防災につながります。『生活者の視点の防災』と呼んで大事にしています」
「多様性を認め合うためには一人一人の特性を考えニーズを聞くことが大事。それぞれの気付きを災害前に互いに共有しておけば、事前復興につながります」
―防災士を目指す人にメッセージをお願いします。
「防災は、人の命を思いやること。命そのものに重きを置いた活動に取り組んでください。上から目線で教えるのではなく、日頃から人の気持ちに寄り添うことを心がけてほしいです」
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東日本大震災の発生から13年。あの日を知らない若い世代が増える中で、命を守る教訓を伝え継ぐために何ができるのか。震災後に河北新報社に入社した記者たちが、読者や被災地の皆さんと一緒に考え、発信していきます。
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