地形リスク「わがこと」に 仙台・水本匡起さん<先輩に聞く・チャレンジ防災士(3)>
東日本大震災後に河北新報社に入った若手記者4人が10月、防災士資格に挑戦した。試験には無事合格したものの、肝心なのは得た知識を報道や日常生活にどう生かせるかだ。東北で活躍する防災士3人に、資格取得を目指したきっかけや、仕事や生活への活用法を聞いた。
東北福祉大の専任講師で2年前に防災士となった水本匡起さん(50)は、地形学の研究者として培った知識を踏まえ、身近な地形に潜む洪水や土砂災害のリスクを授業や講演会で伝えている。その際に使用しているのが、地表の起伏が浮き上がって見える3D画像加工を施した航空写真。専門知識のない人でも、災害リスクを「わがこと」として理解できるよう工夫を凝らす。(編集局コンテンツセンター・藤沢和久)
―3D画像とは。
「左に赤、右に青のフィルムを貼った3D眼鏡をかけて見ると、奥行きがあるように感じる技術。かつて映画でも使われていました。大雨の際に水の流路となる可能性がある谷筋や、過去に起きた土砂崩れの痕跡を把握できます。自治体のハザードマップで洪水や土砂災害のリスクが低いとされている場所でも、こうした痕跡が見つかることがあります」
―防災に取り組むきっかけは。
「2016年12月にあった宮城県角田市の防災士養成講座で、被害想定やハザードマップを題材にした授業を受け持ったことが転機になりました。地震と津波はともかく、より発生頻度の高い水害、土砂災害に対する市民の関心は当時まだ低かったのです」
「身近な地形に目を向けてもらえたら、命を守る行動につながるのではないかと考えました。事前に何度も現地を訪ねてレンタサイクルを使い、洪水の跡などを調べました。そうして作成した資料を示しながら話すと受講者の目つきが変わり、手応えを感じました」
―地形に着目したのはなぜですか。
「もともと変動地形学と呼ばれる分野が専門で、学生時代から活断層の位置や動いた時期について研究してきました。防災に関する講演や授業に携わることで、知識を社会に還元できるようになりました。現在は地域防災学も専門としています」
―今でも会場ごとに資料を作り分けていますね。
「地域の多様性を無視した一般論は防災に関しては全く通用しません。山間部か住宅地か、高齢者が多く住んでいるか学生街かでも事情が違います。講演が住民の心に届いて行動変容を促すには、それぞれの地域に応じたカスタマイズが必要です」
得意技を持って
―防災士を20年に取得しました。
「防災のより幅広い知識を得たくなったためです。とはいえ、防災のあらゆる分野の専門家になるのは無理ではないでしょうか。防災士養成講座の講師を務める時も『それぞれの得意技を持ってほしい』と話しています」
―住民と街を歩いて災害リスクを調べる「防災まちあるき」を手掛けています。
「昨年から大学のある仙台市青葉区国見地区などで開いています。上り坂の途中で下りに転じ、また上るような場所をつないでいくと谷筋が分かります。参加者自ら見つけられるよう意識しています」
「他人から『あなたの家は危険だ』と言われて素直に受け入れられる人は少ないですが、身近な地域の豆知識なら近所の人や友だちに伝えたくなります。楽しみながら歩いていたら、知らず知らずのうちに防災につながっていた、という流れが大切です」
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東日本大震災の発生から13年。あの日を知らない若い世代が増える中で、命を守る教訓を伝え継ぐために何ができるのか。震災後に河北新報社に入社した記者たちが、読者や被災地の皆さんと一緒に考え、発信していきます。