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資格取得者が年々増加 コロナ禍で活動制限、年代バランスに偏りも<現状と課題・チャレンジ防災士(5)>

 防災士は民間の認証制度が始まって20年で、24万人超が誕生した。特に東日本大震災以降は防災意識の高まりを受け、取得者が年々増える傾向にある。地域や職場での防災リーダーとしての役割に期待が高まる半面、新型コロナウイルスの感染拡大、年代バランスといった課題にも直面している。(編集局コンテンツセンター・藤沢和久)

防災士登録者の推移

震災直後は復旧・復興優先

 防災士はNPO法人日本防災士機構(東京)の認証制度で、6434人が犠牲になった1995年の阪神大震災を教訓に2003年に始まった。取得者は12年度に1万人、18年度に2万人を超え、コロナ禍が始まった20年度以外は2万人台前半を維持する。

 東北各県も、おおむね全国と同じ傾向で推移している。ただ11、12年度は東日本大震災後の復旧・復興が優先されたことなどから全国より伸び率が低く、13~16年度は逆に高い。

 震災後は東北各県で防災士養成講座を開催する自治体や大学が増え、地方でも受験しやすくなった。東北福祉大(仙台市青葉区)は12年、東北の大学として初めて日本防災士機構から養成機関の認定を受け、年3回開講している。

 東北福祉大教授で日本防災士機構理事を務める舩渡忠男さん(68)は「3・11の経験を踏まえ、次の災害に備えるには何が必要なのか。若い世代に考えてもらう狙いがある」と明かす。

十分に活動できない状況続く

 今回の「チャレンジ防災士」特集で資格取得に挑戦した河北新報社の若手記者4人も、東北福祉大が10月に仙台駅東口キャンパスで開いた講座に参加した。

 記者と一緒に受講した約200人のうち、半数は学生が占めた。講座は大学の授業の一環でもあり、東北福祉大生はテキスト代と受験料の計数千円の負担で参加できる。合格すると、卒業に必要な単位に数えられるという。

 13年には、学生の有志と教職員が防災士協議会「チーム防災士」を結成している。宮城県内の町内会と連携して避難所運営訓練の企画運営や防災マップ作成に取り組んだほか、手作り教材を使って小学校で出前授業を開いたり、ラジオ番組で防災知識を伝えたりしてきた。

 軌道に乗った時機に、コロナ禍が襲った。訓練の規模縮小や出前授業の見送りで十分に活動できない状況が続く。舩渡さんは「活動は平時から防災について考え、実践する貴重な機会だった」と言う。

会員の約7割が60代以上

 在学中に資格を取得した学生らが卒業後、地域で活動を続けない点も課題になっている。県内の防災士有志で構成する「防災士会みやぎ」。会員約140人のうち約7割が60代以上、若者は高校生の2人にとどまる。大学生が入会していた時期もあったが、県外に就職するなどして活動を離れた。

 防災士会みやぎは主に県内の市町村や町内会などからの依頼を受け、避難訓練や防災講習会に会員を派遣している。要望は多い時で年150件に上り、コロナ禍の避難所運営方法など最新の知見を求められることもあるという。

 「防災士は資格取得がゴールではなく、むしろスタート」。理事長を務める児玉敏幸さん(64)=宮城県名取市=は「訓練や講習といった取り組みを通して改めて身に付く知識や技術が多い。ぜひ若い世代に参加してほしい」と願う。

防災士養成研修講座で講師を務める斎藤徳美・岩手大名誉教授(地域防災)の話 

防災士の役割について語る斎藤名誉教授

 防災士の数は増えているが、目的意識に差があり「玉石混交」となっているのが実情だ。資格取得後はスキルアップを図ってほしい。いざという時に力を発揮するため、過去の災害でどんな悲惨な結果があったのかを学び、自分ならどう行動したかを考えることが大切だ。

 岩手県内に甚大な被害をもたらした2016年台風10号では、岩泉町小川地区で、地元の防災士が作った避難マップが役に立ったという。東日本大震災では多くの悲劇があったが、防災士が一人でも多くいて、適切な場所に逃げるよう訴えていれば、犠牲者は減ったかもしれない。

 町内会、事業所、学校ごとに1人防災士がいるのが理想の形。行政には各地域にどのくらいの防災士がいるのかを把握し、組織化することを望みたい。自治体の防災担当と地域の防災士とのつながりが強化されれば、災害時に臨機応変に対応できるはずだ。(盛岡総局・横川琴実)

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