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わいどローカル編集局>稲井(石巻市)

真野川堤防から見た新栄地区。山沿いや新栄地区周辺に「稲井」の由来になった井内地区がある

 石巻地方の特定地域のニュースを集中発信する「わいどローカル編集局」を開設します。3回目は「石巻市稲井地区」です。

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豊穣の願い、地名に

 石巻市稲井地区は南境、大瓜、高木、水沼、真野、沼津、沢田、井内、根岸、新栄、美園、開成で構成される。大字の中に「稲井」はない。

 「稲井町史」、「石巻の歴史」によると、「稲井」の由来は、1889年の町村制施行で、南境、大瓜、高木、水沼、真野、沼津、沢田、流留の8村合併で稲井村が誕生したことに始まる。旧村名使用を巡った集落の争いを避けるため、当時の村長と県議があっせんし「稲井村」と決定した。

 役場所在地の「井内」に語呂が合ったほか「農村地帯にふさわしく、汲(く)めども尽きぬ井泉のごとく豊穣(ほうじょう)満作であれかし」との願いが込められているという。

 1959年4月に町制を施行。67年3月に石巻市に編入合併した。市稲井支所によると2023年2月1日現在の地区人口は6132人。

<牡鹿三十三所 参り納めの寺>

 同市真野で808年に創建されたとされる長谷寺の永松泰信住職(75)は、かつての稲井地区の暮らしぶりについて「井内石の採石や農業に加え、製塩や林業も盛んだった」と振り返る。塩田は現在のイオンスーパーセンター石巻東店周辺など、流留、沢田地区に広がっていた。

 長谷寺は市内33カ所の寺院を巡る「牡鹿三十三所」で33番目の参り納めの寺で、「自分が幼少の頃は参拝者が毎日のように訪れ、母が昼食の支度もできないほど対応に追われていた。馬車やトラックで駆け付ける人もいた」と語る。

 現在は永松住職が30年ほど前から株分けを続けてきたヒガンバナが人気を集めている。境内の斜面を赤く染める姿を一目見ようと、地元住民だけでなく県外からも観光客が訪れる。例年9月中旬に見頃を迎える。

井内石、記念碑や建材に珍重

切り出した井内石について説明する阿部さん=石巻市井内

 北上川河口左岸、牧山のふもと一帯に広がる粘板岩が井内石だ。古くは鎌倉時代に建立した板状の供養碑に使用された記録が残る。

 現在も稲井地区には20以上の石材店がある。墓石や記念碑などの材料として珍重される。最近、墓石と言えば黒光りする御影石が主流だが、井内石は色こそ徐々に灰色がかるものの石質の劣化が少ない。それゆえ津波来襲を伝える板碑など、後世に長く伝える大切な役目を担ってきた。稲井石と称することも少なくない。

 井内石は砂や泥などが水圧で固まった粘板岩。雄勝地区のスレートと同じだが、井内石は大きな塊として採取できる。松島町の国宝・瑞巌寺をはじめ仙台藩ゆかりの寺社の敷石の多くにも使われている。最近では東日本大震災後に新築した南三陸町の南三陸病院の外壁の一部、おととしには、現在全面リニューアル中の県慶長使節船ミュージアム(石巻市渡波、サン・ファン館)に井内石製の復元船記念碑が設置された。

 稲井地区で長く井内石を扱うアベタ石材専務の阿部伸さん(58)は「年数を経ると灰色がかった色合いになる。その風情がいい。さらに極めて耐久性が高く、記念碑などには最適な石」と話す。コケとの相性もよく、日本庭園らしい自然な風合いを醸し出すという。

 「素材としての可能性を広げたい」と阿部さん。その耐久性と風合いを生かし建造物やモニュメントに活用されれば、震災を乗り越え行楽客を迎える産地石巻の街並み整備の一助になるかもしれない。

商店店主 × 演歌歌手、暮らしを支え心癒やす

商店の店主と演歌歌手の二刀流で地域に貢献する日野さん

 日野宏之さん(46)は祖父の代から続く建築資材・食品販売「日野商店」の3代目と、演歌歌手「金滝昇(かねだきしょう)」という二つの顔を持つ。東日本大震災で被災、新型コロナウイルスの影響で活動が制限されるなか、地域住民の生活を支え、歌で心も癒やしている。「仕事と歌の二刀流で石巻・稲井を盛り上げたい」と、地域貢献への思いは強い。

 28歳で歌手を志し、芸能エンタープライズ真野(石巻市中央3丁目)の真野晋一社長に師事。29歳だった2006年にデビューした。歌唱力に定評があり、今でも東京の大手芸能事務所から声がかかるという。

 仕事の合間を縫って行っていた歌手活動だが、震災前後に家族に不幸があり、自身も体調不良になったため、一時は諦めかけたことがある。それでも、真野社長から「歌えるようになるまで待っている」と励まされ、16年に復帰した。

 活動再開後は病院や高齢者施設を慰問。終演後、歌声を聴いた女性が涙を流し「元気をもらった。ありがとう」と手を握ってくれたこともあり「地元への思いが強まった」と振り返る。

 数ある曲の中でも、6枚目シングル「風の町に」は震災で打撃を受けた石巻を鼓舞する一曲で、2800枚以上を売り上げた。昨年リリースの「思い出の横浜」は、動画投稿サイトで1万回以上再生されている。

 新型コロナ禍で石巻や東北地方、首都圏で中止が続いていたコンサートが再開され始めた。「ボイストレーニングを継続していたので問題なかった」と余裕の表情だ。

 3月11日には地元稲井公民館で歌謡ショーを開く。「稲井は家族と一緒で、なくてはならない存在」と話す日野さん。「愛され、必要とされ続ける会社と歌手になるべく頑張っていく」と古里での活躍を誓う。

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 今回は小笠原新聞店稲井専売所と連携し、大谷佳祐、藤本久子、佐藤紀生の各記者が担当しました。次回は「石巻市桃生」です。

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