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3.11の いま(2)津波避難 新浸水想定に苦悩「逃げ場ない」 車も課題

内陸に向かう避難道の渡波稲井線。沿道には浸水域外への案内表示があるが、昨年の津波注意報発表時には渋滞で機能しなかった

 発生から12年を迎える東日本大震災は、いまだ多くの課題を住民や行政、事業者に突き付ける。被災地の現在を歩いた。(保科暁史、及川智子)

   ◇

<20数カ所見直し>

 「大津波が来たら逃げる場所がない。お手上げだ」。石巻市渡波栄田で行政区長を務める鶴岡毅一さん(78)が苦笑する。

 昨年5月に県が公表した新たな津波浸水想定では、渡波地区は海岸線から山際までほぼ全体に3~10メートルの津波が到達する。約200世帯が暮らす行政区内に、逃れられる高さの建物はない。

 以前は内陸に500メートルほど歩く鹿妻小を避難場所にしていたが、新想定では3~5メートルの浸水域に。鶴岡さんは住民に避難先を聞かれても「個人で決めてほしい」としか言えなくなった。「安全な場所があるなら伝えたいが、それがない」

 新想定で市の浸水面積は震災時の1.2倍に拡大した。市は地域防災計画の改定の中で一次避難場所277カ所の検証を進めており、現状では二十数カ所が見直し対象になるとみられる。避難場所の空白地帯があれば、避難タワーなどのハード整備も検討する。

 近くに安全な場所がなければ当然、車を使って避難する人がさらに増える。

<内陸向かい渋滞>

 震災時に渡波地区などで多くの避難車両が津波に流されたのを教訓に、市は2021年3月、内陸部とトンネルで結ぶ避難道「渡波稲井線」を整備した。だが、津波注意報が出た22年3月の地震では機能しなかった。トンネル入り口まで駆け上がった車両がそこで停車。後続車両が渋滞して行き場を失い、地区内の細い道路にまであふれた。

 市は計画改定後も要支援者以外は原則徒歩避難の方針を維持する考えだ。市内は山や川に阻まれて内陸へのルートが限られる。何千何万という車両が避難すれば渋滞は必ず起こる。

 車での避難が多いという現実に合わせた対策は必要だが、それが容認するメッセージとしても伝わりかねない。市危機対策課の馬場貴司課長は「バランスが難しい」と頭を悩ませる。

<東松島市、車避難試行へ>

 一方で、東松島市は避難計画の改訂案に車避難を盛り込み、6日に始めた住民説明会で示した。避難場所から1キロ以上離れたエリアを徒歩避難の困難区域とし、車避難を認めた。新想定で浸水域が震災時の1.3倍に拡大。到達予想時間も考え、徒歩だけでは住民の命を守れないと判断した。

 車での避難先は駐車可能台数を示し、地域ごとに割り当てる。渋滞を避けるためルートを指定して分散し、内陸につながる市道の拡幅も進める。

 ただ、有事にどれほどの住民が計画通り行動するかは未知数だ。市防災課の担当者は「新年度の市総合防災訓練は新たな計画を反映させ、車での避難も試す。まずは訓練を通して検証したい」と説明する。

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