震災を知らない世代へ 命守る学習、模索 石巻地方
東日本大震災から12年。被災地では震災を経験していない世代が増え、石巻地方では教訓の伝承をはじめ、児童生徒や未来の命を守る防災教育の重要性が一段と高まっている。(浜尾幸朗)
大曲小 当時の教頭・荒明さん、体験語る
東松島市大曲小(児童264人)は2月7日、3、4年生(68人)を対象に防災学習会を企画した。災害を自分の問題として捉え、対処していく意識を高めるのと、防災対応能力を培うのが狙い。震災時、同校教頭だった荒明聖さん(59)=名取市不二が丘小校長=が講師を務めた。
荒明さんは津波の怖さを教え「水深30センチでも流される」と説明。早速、子どもたちは用意した物差しで30センチの水深を確認した。
大曲小を襲った津波の高さは1.9メートルで、校舎1階が水没した。「当時は424人が在籍し、校舎に残っていた児童は校舎3階に避難した。3日目に水が引き、教頭先生の机の中で見つかったのはエビだった」
飲料水と食料確保のため、教員に「水」「食」の文字を書かせてカーテンのない窓に貼り、3日目に救援物資が届いたエピソードを紹介。「食パン145枚が届き、学校に避難していた870人が1枚を6人で食べた。7日目には6600個の生卵が届き、わき水でゆで卵にして配った」
「振り返ると11年たって反省するところがある。アレルギーの人はゆで卵を食べられない。学校には前もって食料や水を備蓄しておくことが必要」と反省点を口にした。
震災で54人が転校した。「屋上で体育の授業をし、校庭で遊べるようになったのは10月だった」と荒明さん。「全国、世界の人から支援を受けた。人間の本当の優しさや強さ、強い心、耐える力を学んでほしい」と語りかけた。
ともに4年の片倉遙琉さん(10)は「分かりやすく震災後のことを学べて良かった。自分も災害を経験したら、みんなの役に立つ人になりたい」、及川響君(10)は「大曲小が国内外の人々から支援を受けて復興を果たしたことが分かった。食パンの話は助け合う心の尊さを学んだ」と感想を述べた。
荒明さんを講師に教員向けの研修も実施した。
同校は震災から10年目の2020年11月に5、6年生を対象に防災学習会を始め、22年1月は4、5年生向けに実施した。
遠藤公司校長は「震災を経験しない子どもが増えてくる。当時の学校の様子を聞くことは震災を自分事として捉え、風化を防ぐことにもつながる」と指摘。
震災を教訓に(1)情報を的確につかんで行動(2)防災マニュアルを大事にしつつも状況に合わせた判断力-が大切と強調し、「防災教育とともに研修の継続が子どもの命を守る」と話した。
桃生中 遺構を見学、兵庫の中学生に伝える
石巻市の内陸部にある桃生中(生徒178人)は本年度、全学年が市震災遺構門脇小で防災学習に取り組み、当時の状況や津波の恐ろしさを学んだ。震災を自分事として捉え、できることを考え行動に移す。命の重さを伝え、つなぐ活動は、震災を知らない世代や未来の命を守ることにもつながる。
1年生(52人)は1月18日、門脇小校舎の見学や被災者の講話を聞く体験学習に臨んだ。当時、門脇小校長だった鈴木洋子さんは震災当日の児童の様子や避難について説明し「門脇小の校舎は津波や火災に遭い、それぞれの階で被害が違う。どう逃げるか考え、危機的状況でも安全な判断ができる大人になってほしい」と話した。
日和幼稚園遺族有志の会の佐藤美香さん、女川中卒業生有志でつくる「女川1000年後のいのちを守る会」の渡辺滉大さんらの講話も聞いた。被災した校舎や展示館を見学し、南浜・門脇地区を襲った津波と火災、石巻市全体の被害を学んだ。
後日、交流先の兵庫県高砂市の竜山中1年生に震災で起きた石巻の被害や特徴をまとめて紹介した。桃生中1年生は新年度、門脇小での語り部活動も視野に入れる。
同校は本年度、生徒一人一人の可能性を育むことを重点事項とし、命の大切さを学ぶ体験活動に力を入れている。
震災から12年。3月3日には「みやぎ鎮魂の日」生徒集会(いのちの大切さを考える会)を体育館で実施した。東日本大震災で亡くなった多くの人たちを追悼するとともに、一人一人の命を守り、育むことについて考えるのが狙いだ。
全員で犠牲者に黙とうした後、学年ごとに防災学習の取り組みを発表した。1年生の代表は災害に備える大切さを説き「自分にできることを行動に移し、誰かのためになる生活を送ろう」と呼びかけた。
2年生の代表は、震災を知らない世代が増えていく中で(1)震災の事実と恐ろしさを理解し広める(2)震災の恐ろしい記憶と知識、それを乗り越える絆を未来につなげる-ことを目的に活動したと説明した。
門脇小では、映像で当時の状況などを学んだ。桃生地区の避難所も見学した。新年度は、女川1000年後のいのちを守る会の活動を体験する。
阿部薫心さん(14)は「震災を自分事と受け止め、学んだことを次の世代に伝え、未来の命を守りたい」と話した。
「いのちの大切さを考える会」会長の武田瑚白さん(14)は「震災を絶対に忘れてはいけない。記憶を風化させないためには語り継ぐこと」と語り、東北以外でも伝承活動を継続する必要性を強調した。
石巻・学校防災会議、新津波浸水想定で避難計画見直し
震災の教訓を生かし、子どもの命を守るため、石巻市教委は学校防災推進会議(座長・佐藤健東北大災害科学国際研究所教授、21人)を設置し、「防災研修」「防災管理」「防災教育」の3本柱で最大被災地の学校防災を推し進める。
各ワーキンググルーブは、教師の災害対応力向上に向けた研修会や学校安全マニュアルの点検・改善の指導、大川小事故検証報告書の24項目の提言に関する取り組み状況調査などを行う。
県が公表した津波浸水の新想定を受け、各校は避難計画の見直しを進める。校舎上階への垂直避難から高台などへの避難をどう安全に進められるか、学校と地域の連携、行政のサポートが喫緊の課題となっている。
市防災センターで2月10日にあった本年度第3回の会議で、鹿妻小が鹿妻山などを緊急避難場所として検証した事例を紹介。桜井愛子東北大災害科学国際研究所教授は「全員が同じ場所に避難しないで近くに民間施設がある場合、分散避難も選択肢となる」と指摘した。
震災から12年。桜井教授は地域防災連絡会だけでなく、コミュニティ・スクール(CS)、セーフティプロモーションスクール(SPS)も学校の連携先に加えることや、地域の災害リスクを管理・分析し情報共有する重要性を強調。「今後、学校防災のミッシングリンクをつぶして実効性を上げてほしい」と提案した。
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みやぎ地域安全情報
宮城県警 みやぎセキュリティメールより
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