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発掘!古代いしのまき 考古学で読み解く牡鹿地方>行政単位と石巻地方 I

古代地方行政制度と赤井官衙遺跡出土の「牡鹿」を示す文字資料
「和名類聚抄」に記された牡鹿郡の郷名と赤井官衙遺跡から出土した 郷名を記した土器(ともに東松島市教委提供)

【東北学院大博物館学芸員・佐藤敏幸氏】

第4部 律令国家の完成と石巻地方の支配

<8世紀、律令国家に編入>

 現在の日本の行政単位は都道府県市(郡町村)行政区に区分されています。その他にも、東・西日本、〇〇地方などのまとまりで扱われることもあります。古代の行政単位はどのようなものだったのでしょうか。

■「国郡里制」編成

 大宝元(701)年、大宝律令が完成し、全国に律令制を施行して統治します。令制では広域地方の行政区画として「五畿七道(ごきしちどう)」を定めます。「五畿」は京(みやこ)周辺の大和(やまと)、山城(やましろ)、摂津(せっつ)、河内(かわち)、和泉(いずみ)の国で「畿内(きない)」とも呼ばれます。現在の奈良県、京都府中南部、大阪府、兵庫県南東部に当たります。「七道」は畿内から全国に放射状に延びる東海道、東山道、北陸道、山陽道、山陰道、南海道、西海道の古代道沿線の諸国を指します。陸奥国は近江(滋賀)、美濃、飛騨(岐阜)、信濃(長野)、上野(群馬)、下野(栃木)の延長線に位置付けられていて東山道諸国に属します。ちなみに、東海道諸国の北端は常陸(茨城)で、道路自体は福島県浜通りを抜けて現在の岩沼まで行きますが、行政区画としては陸奥国は東山道に属します。

 さらに全国を国(くに)・郡(こおり)・里(さと)の3段階の行政組織に編成しました。いわゆる「国郡里制(こくぐんりせい)」です。公民家族は1戸として数えられます。1戸は現在の家族単位の戸とは少し違っていて、叔父叔母家族などと一緒に戸を作るので、1戸当たり平均20人と試算されています。里は50戸で1里(郷)、20~2里で一郡、国は古墳時代以来の地域区分単位です。この区分によって全国に66の国、約550の郡、約4000の里が設定されました。律令国家は養老元(717)年ごろ、「国郡里制」に変わって「郷里制(ごうりせい)」を施行します。それまでの「里」を「郷(さと)」に編成し直した制度です。

 古代の国の境、郡の境、郷の境は、現在のような地籍図は作成されていませんから、暗黙の了解で決めた境界だったようです。50戸で一郷を数える郷の範囲は、単純に戸数が50になる範囲を郷としましたから、遠く離れた集落も集めて50戸にしました。そして余った50戸に満たない戸をまとめて餘部郷(あまるべのさと)としました。

■全域が牡鹿郡に

 霊亀元年の大量移民によって大崎・石巻地方に黒川、賀美、色麻、志田、玉造、富田、長岡、新田、小田、牡鹿の10の郡が建郡されました。いずれも2~3郷+餘部郷で1郡とする小規模な郡です。奈良時代前半の石巻地方は東山道諸国の陸奥国の牡鹿郡に当たります。桃生郡は758年に桃生城が造営された後、奈良時代後半に牡鹿郡から分郡されますから、それ以前は石巻地方全域が牡鹿郡でした。東松島市赤井官衙(かんが)遺跡からは「牡□」のへら書き土器、「牡舎人」の墨書土器が出土して東松島市が古代の牡鹿郡に属することが証明されました。

 また平安時代に編さんされた「和名類聚抄(わみょうるいじゅうしょう)」には牡鹿郡に「賀美」「碧河」「餘部」の三つの郷、桃生郡に「桃生」「岩城」「岩越」「餘部」の四つの郷が記載されています。奈良時代には桃生郡も牡鹿郡の範囲だったとすると5郷+餘部郷だったのかもしれません。赤井官衙(かんが)遺跡館院2地区南方院からは、8世紀前葉の赤井遺跡III-2期の2軒の住居跡からそれぞれ「上郷」「余郷」と墨書された土器が出土しています。「上郷」は「賀美郷」を「余郷」は「餘部郷」を省略したものと考えられます。牡鹿郡に置かれた三つの郷のうち二つの郷名を記した土器が発見されたのです。

■全国と同時施行

 郷名を記した土器は8世紀前葉の「郡郷制」が施行された時期のものです。この墨書土器によって717年直後には既に戸籍が整えられ、郷が編成され、牡鹿郡が建郡されたと考えられます。全国と同時期に郡郷制が施行されたことが明らかにされたのです。これまで黒川以北十郡がいつ成立したのか明確ではありませんでした。恐らく黒川以北10郡全体も同時に成立したのでしょう。この段階で蝦夷と共存する社会ではありますが、律令国家の範囲に組み込まれたのです。

 「上郷」「余郷」の墨書土器が出土した館院2地区南方院は、前時期に蝦夷の土器が出土した地区で蝦夷との供宴の場だったところです。郷名を記した土器は牡鹿郡内の郷の代表者(郷長)の供宴の場で使われた土器かもしれません。

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