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たばこの害、断ち切ろう あす世界禁煙デー

インタビュー>石巻赤十字病院・血管外科部長 大原勝人氏

大原勝人(おおはら・まさと)氏、神奈川県藤沢市出身。東北大医学部卒。大崎市の古川市民病院での研修、東北大勤務を経て2004年から現職。
荒川梨津子氏

<禁煙効果、何歳からでも>

 31日は世界保健機関(WHO)が定めた世界禁煙デー。石巻赤十字病院(石巻市)の大原勝人血管外科部長(52)は「喫煙は万病の元。いつやめても遅くはない」と訴える。

<臓器や血管に負荷>

-喫煙は血管にどのような影響をもたらしますか。

 「たばこの煙に含まれる有害物質は無数にありますが、血管に影響を与えるものとしてニコチン、一酸化炭素、活性酸素などがあります。ニコチンは血管を収縮させて血圧を上昇させ、心拍数を上げて心臓に負荷をかけます。一酸化炭素は赤血球が運ぶ酸素と置き換わることで臓器の酸欠を招き、血管自体に障害を与えます。また、酸素運搬能が低下し、赤血球が過剰に造られるため、濃い血液になります。いわゆるドロドロ血液です。活性酸素は血管の弾力性に関わる一酸化窒素を減少させ、血管を固くします。他にも血液を固まりやすくしたり、動脈硬化を促進したりします」

-主な血管疾患は。

 「動脈硬化性疾患は全てたばこが影響します。狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患、アテローム血栓性脳梗塞、閉塞(へいそく)性動脈硬化症や大動脈瘤(りゅう)などが該当します。たばこの有害物質などによって血管の内側(内膜)が傷付けられ、そこから悪玉コレステロール(酸化LDLコレステロール)が入り込んで増殖すると血管が狭くなり、さらに進むと閉塞します。どこの部位で血管が傷付くかによって心筋梗塞になったり脳梗塞になったりします」

-閉塞性動脈硬化症?

 「動脈硬化によって下肢の血流が落ちる病気です。軽い冷感程度から間歇性跛行(かんけつせいはこう)(一定距離歩くと必ず下肢が苦しくなる)となり、さらに進行すると安静時疼痛(とうつう)、潰瘍形成から壊死(えし)に至ります。たばこが増悪因子であり、1日20本以上吸う55~64歳の男性は、同年代の非喫煙者より間歇性跛行の出現率が4倍になることが知られています」

<手足切断の例も>

 「動脈硬化とは異なりますが、血管の炎症により四肢の血流障害を来すバージャー病という疾患もあります。ほとんどが若年の喫煙男性であり、たばこが最大の増悪因子です。発症後も喫煙を続けた患者の43%は少なくとも1回以上の切断を受けたという報告もあります」

-腹部大動脈瘤とは。

 「腹部で一番太い動脈にこぶができる病態です。基本的に無症状ですが、大きくなると破裂します。破裂すると半分の人は病院到着前に亡くなります。なんとか手術できたとしても3割程度亡くなってしまうので、予防が重要になります」 
 「たばこが最大の危険因子で、喫煙者の動脈瘤発生率は非喫煙者の4倍です。また、喫煙により動脈瘤の増大スピードは20~25%増えますが、禁煙するとリスクが下がることも証明されています。家族性発生が見られる疾患なので、親兄弟に動脈瘤の既往がある人はできるだけ早いうちに禁煙することをお勧めします」

<家族のリスク大>

-受動喫煙と血管の健康障害はどうですか。

 「受動喫煙で虚血性心疾患のリスクが25~30%増えます。また、心筋梗塞による非喫煙者の死亡の2割は、周囲のたばこが原因と言われています。脳梗塞についても配偶者が喫煙者の場合にリスクが2倍になります。喫煙の影響は自分だけでは済まないのです」

-加熱式や電子たばこが広がっていますね。

 「たばこの煙に安全なレベルはなく、周囲への健康被害は大きいというのが厚生労働省の見解です。加熱式はニコチンを含んでいるので血管への影響は変わりないと思います。電子たばこは発売から日が浅く、血管への影響は不明ですが、米国では電子たばこが原因と疑われる肺疾患が次々と報告されているようです。また次世代たばこは、紙巻きたばこに戻ってしまう人も多く、禁煙につながらないことも問題です」

-高齢者の禁煙にも効果はありますか。

 「虚血性心疾患のリスクは禁煙1年でほぼ半減し、15年やめると非喫煙者とほぼ変わりません。そういった意味で高齢者や喫煙歴が長い人でも十分意味があります。年だから好きなことをしたいという人がいますが、具合が悪くなると病院に行くわけですし、家族に負担をかけることになります。禁煙は誰がいつ始めても遅いことはありません」

 

寄稿>石巻赤十字病院・産業医 荒川梨津子氏

<外来活用、依存症から脱却>

 肺がん、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)、心筋梗塞、脳卒中、そして血管の病気。ほかにも、たばこによって引き起こされたり悪化したりする病気は数多くあります。たばこを習慣的に吸う人は、吸っていない人と比べて10年程度寿命が短くなると言われています。

 たばこは吸う人自身だけの問題ではなく、たばこの先から出る煙(副流煙)や吸った後、口から出る煙に含まれる有害成分が、近くにいる人に悪影響を及ぼす「受動喫煙」があることは、既に多くの方がご存じかと思います。自分のため、家族や大切な人のため、たばこをやめたいと思う人は増えています。

<禁断症状に苦慮>

 しかし、やめようと思ってもなかなかやめられない…。禁煙は皆さんが思っている以上に難しいのです。

 たばこがやめられない原因に「ニコチン依存症」があります。ニコチンはたばこに含まれる有害成分で、たばこに依存する原因となる物質です。たばこを吸うと肺からニコチンが取り込まれ、わずか7秒ほどで脳に到達し、脳内のニコチン受容体に結合します。

 するとドーパミンなどの神経伝達物質が放出され、快感・覚醒・満足感などを感じるようになります。たばこを習慣的に吸うと、これらの神経伝達物質の調節がニコチンに依存するようになり、たばこが吸えないといらいらや眠気、集中力の低下など、ニコチンの禁断症状が現れます。禁煙に挑戦しても禁断症状に阻まれ、失敗する場合が多く見受けられます。

 ニコチン依存症の強さは、遺伝で決められたニコチン受容体の性状や体内でのニコチン分解速度によるとする研究結果があります。たばこのやめづらさは、意志の強さよりも体質によることを示しています。

<補助薬、お手伝い>

 禁煙を考えている方は、まず自力でチャレンジしてみてください。そのまま禁煙を継続できるなら、あなたのニコチン依存度はさほど高くなかったと考えられます。数日のうちに吸いたい気持ちに負け、たばこを吸ってしまった方は、ニコチン依存度が高いと考えられます。その場合、自力で禁煙することは難しいと思われますので、禁煙外来を活用してみましょう。

 禁煙外来は、たばこが嫌いになる治療を行う所ではありません。医者や看護師のサポートと、禁断症状が大幅に緩和する「医療用禁煙補助薬」で、あなたが楽に禁煙できるようお手伝いするための外来です。従って禁煙を成功させるためには、禁煙しようという強い意志と成功させるための工夫や努力が必要なのです。

 当院の禁煙外来では、受診される方に「禁煙成功のための工夫」をいくつかお伝えしていますが、今回は次の2点をご紹介します。

<周囲に宣言して>

 まずは、はっきりした禁煙の目的を持つことです。「誰かに勧められたから仕方なく」や「とりあえず」「何となく」では、すぐに吸いたい気持ちに負けてしまいます。「自分の健康のため」や「子ども・孫のため」「たばこ代を節約して家族旅行に回すため」などの具体的な目的を持つことを勧めています。

 また、周りに禁煙していることを積極的に伝えましょう。家族や職場の同僚が自分の近くでたばこを吸えば、その姿や臭いが誘惑となります。禁煙を宣言することで、そのような誘惑を避けるようお勧めしています。禁煙宣言することは「つい1本吸ってしまう」ことへのブレーキにもなります。

 禁煙したいと思ったら、その時が禁煙チャレンジのタイミングです。1回でやめられない人はたくさんいます。失敗しても、何度でもチャレンジして、失敗体験を教訓にしながら禁煙外来を活用してください。

 あなたもこの機会に、ニコチンの束縛を断ち切って、禁断症状というストレスから解放された健康的な生き方を選択してみませんか。

石巻地方などの主な禁煙外来実施医療機関

ししど内科クリニック  0225(83)8830
しらゆりクリニック   0225(22)3717
やもと内科クリニック  0225(98)3260
伊藤内科クリニック   0225(96)6372
かづま内科クリニック  0225(96)7700
佐幸医院        0220(22)7003
佐藤医院        0225(76)3420
中浦内科医院      0225(21)7551
松島病院        022(354)5811
駅前北きし内科クリニック0225(95)3123
女川町地域医療センター 0225(53)5511
森さい生医院      0225(98)8891
真壁病院        0225(82)7111
石巻市立牡鹿病院    0225(45)3185
石巻市立病院      0225(25)5555
石巻赤十字病院     0225(21)7220
中川内科外科医院    0225(72)2123
登米市立上沼診療所   0220(34)2120
米谷医院        0229(44)1133

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