発掘!古代いしのまき 考古学で読み解く牡鹿地方>奈良時代前半の牡鹿地方-国家への編入
【東北学院大博物館学芸員・佐藤敏幸氏】
第4部 律令国家の完成と石巻地方の支配
<蝦夷と公民、共存に不和>
今回で第4部「律令国家の完成と石巻地方の支配」が終了です。第4部では飛鳥時代終末の天武天皇の頃から奈良時代前半の聖武天皇の時代までの律令国家の完成と石巻地方について説明してきました。今回は、律令国家完成の頃の中央と石巻地方の状況をまとめておきたいと思います。
■地方制度が整う
日本古代史上、最大の皇位継承の戦いとなった壬申(じんしん)の乱(672年)に勝利した大海人皇子は即位して天武天皇となります。天武天皇は絶大な権力で国家運営を行い、飛鳥(あすか)浄御原令(きよみはらりょう)の制定に着手します。
686年、天武が崩御すると皇后の持統天皇が即位し、日本最初の都城である藤原京(ふじわらきょう)(新益京(あらましきょう))が694年に完成します。都城とは天皇が住む内裏(だいり)と政治を執る大極殿(だいごくでん)を中心に真北を基準とした碁盤の目状に街を造る構造の都市です。さらに旧来の豪族たちの影響を受けやすかった飛鳥から北に離れた奈良盆地に710年、新たに平城京(へいじょうきょう)を造営し遷都します。
国家を統治する古代の法律は701年、藤原不比等(ふひと)らの主導で大宝律令(たいほうりつりょう)が完成します。律は刑法、令は行政法に当たります。大宝律令の成立によって国・郡・里の地方制度も整ったことになります。718年には大宝律令を踏襲しながら改定した養老(ようろう)律令が制定されます。その制度を日本国内に施行したのです。
■課税に反乱続発
律令国家の完成は東北地方にも大きな影響を及ぼします。大化改新(645年)直後に蝦夷(えみし)の地に造営した初期の柵(囲郭(いかく)集落)をもとに、仙台に初期国府郡山官衙(かんが)遺跡(II期)を置き、仙台、大崎・石巻平野の拠点となる遺跡を利用して点的支配を開始します。さらにその範囲を面的に支配して国家の版図(はんと)を拡大するため、715年に坂東の富民(ふみん)1000戸(約2万人)を移住させます。
この大量移民を契機に、それまでの移民と合わせて、大崎・石巻平野に黒川、賀美、色麻、玉造、志太、富田、長岡、新田、小田、牡鹿の10郡を置き、律令制度に基づいて租・庸・調・雑徭の税も課しました。
このような強制は在地の蝦夷と軋轢(あつれき)を生みます。720年に山道地方で養老4年の蝦夷の反乱、724年の海道蝦夷の反乱が相次ぎ、反乱を鎮めるため新たに国府兼城柵として多賀城を造営することになったのです。724年に多賀城が完成すると、しばらく争いは起こらず安定した社会が続きます。
京では長屋王の変などの権力争いや天然痘の大流行で人々は疲弊し、聖武天皇は仏教による鎮護国家(ちんごこっか)を願い、廬舎那仏(るしゃなぶつ)造立、国分寺・国分尼寺の建立の詔を発したりしました。
廬舎那仏に塗布する金の不足を補ったのが、陸奥国小田郡からの産金の知らせです。当時の陸奥国北端に位置する小田郡から黄金という宝が出たことは、更なる未知の資源を求めて国家の版図を北進させるきっかけにもなったと思われます。
当時の石巻地方に当たる古代牡鹿地方では、この地域を治める軍事拠点兼行政施設として牡鹿柵・郡家が造営されます。東松島市の赤井官衙遺跡は7世紀末頃、初期の柵から真北に合わせた本格的な施設に造り変え、正倉(しょうそう)地区、館院(たちいん)地区、儀式関連地区など複数の機能別の地区を材木塀と大溝で囲む施設となりました。
■丸子一族が活躍
そこで生活していた豪族が丸子-牡鹿連(おしかのむらじ)-道嶋(みちしまの)宿禰(すくね)と改氏姓する一族です。丸子氏は元々、上総(千葉県)の伊甚(いじの)屯倉(みやけ)からの移民で、移住当初から中央とのネットワークを持っていたようです。飛鳥の藤原宮に大(おお)舎人(とねり)として出仕していたり、丸子大国のように724年の海道蝦夷反乱で活躍したり、平城宮に舎人として出仕したりする一族でした。小田郡からの産金後には何らかの功績で「牡鹿連」の姓を賜うほどでありました。牡鹿郡の長官の家柄として地元の中心的一族として位置づけられていたのです。
こうして仙台平野、大崎・石巻平野の地域は律令国家に組み込まれていく過程で、国家と地元の蝦夷と間に軋轢が生じ、8世紀前半には2度の反乱が起きたのですが、その後しばらくは争いはなく、平穏な状況が続きます。しかし、公民と蝦夷の共存する地域は簡単には安定しません。やがて国家が蝦夷の地を奪う政策の中で大きな軋轢を生むようになっていくのです。
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