閉じる

福島第1原発処理水、迫る海洋放出(下) 加工・流通の今 輸出取引、相次ぎ白紙に

従業員らが殻むきを行うマルキ遠藤の加工場。来年以降、海外の取引先からの注文は未定となっている
自社で製造する商品を見つめるヤマナカの高田会長。国内で発生する水産物の価格変動を心配する

 石巻地方の水産関係者は、東京電力福島第1原発にたまる処理水の海洋放出計画が、拡大を図ってきた市場に影響を及ぼすことを不安視する。影響は一部で既に出ている。

 処理水は、トリチウムの濃度を国の排出基準の40分の1、世界保健機関(WHO)の飲料水基準の7分の1まで海水で薄め、海底トンネルを通し、放出される。政府は環境や人体に影響はないという安全性をアピールするが、水産関係者に安心感はない。

 石巻市寄磯浜で海産物の養殖加工販売をする「マルキ遠藤」は今年の初め、米国の取引先から「処理水を流す前の日までのホヤがほしい」と言われた。例年の出荷は6月半ばから8月半ばだが、時期を早め、5月から作業に当たった。注文は例年と同じ40トンだが、来年以降は白紙だという。

■風評は既に拡大

 放出前から風評被害を懸念させる動きがあることについて、遠藤仁志社長(60)は「販路拡大のために現地に出向いてパイプをつくってきたのに…。来年以降の輸出も難しいだろう」とやりきれなさを口にする。

 影響はホタテにも出ている。同社は香港に1日約1トンを航空便で送っていた。昨秋ごろ、取引先から年内の出荷量を増やしてほしいと注文された。通常の2~4倍を出荷した後、今年に入ると注文がなくなった。

 遠藤社長は「国は地元の理解なしに海洋放出はしないとしながら、西村康稔経産相が石巻市を訪問したのは6月末になってからだ。遅過ぎる姿勢に誠意が感じられない」と憤る。さらに「補償すればいいということではなく、地元との話し合いを深めてほしい」と願う。

 また、香港政府は今月13日、処理水が放出された場合、宮城を含む10都県の水産物の輸入を禁止すると発表。県漁協の寺沢春彦組合長は「影響は既に出始めている。放出前に対策を講じなければ放出容認の立場にはなれない」と改めて反対の立場を示す。

■単価下落を懸念

 県産のカキやホタテなどの加工、出荷、輸出を手がける「ヤマナカ」(石巻市幸町)の高田慎司会長(55)も「今後、輸出を規制していない国がどう動くのか。単価が安くなれば、利益が上がらない」と各国の動きを注視する。

 同社は2021年から、塩釜市の生産者らと、海外市場向けのマガキ養殖に取り組む。欧米などで主流の養殖手法で育てた殻付きのカキを6月に初めて香港やシンガポールに輸出する計画だったが、立ち消えになった。

 来年以降も計画再開の見通しは立たず、高田会長は「風評が出ない、または気にしない国をターゲットにすることも必要になるかもしれない」と話す。

 原発事故直後からあった風評被害は復興とともに収まってきた。政府は放出の期限を設けず、関係者と徹底的に向き合い、国内外には、科学的根拠に基づく情報を強力に発信し続けることが求められる。

関連リンク

石巻かほく メディア猫の目

「石巻かほく」は三陸河北新報社が石巻地方で発行する日刊紙です。古くから私たちの暮らしに寄り添ってきた猫のように愛らしく、高すぎず低すぎない目線を大切にします。

三陸河北新報社の会社概要や広告などについては、こちらのサイトをご覧ください ≫

ライブカメラ