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エンタメ文化発信、街に新風 石巻・シアターキネマティカ

ホールの壁は、これまで訪れた映画や演劇関係者の寄せ書きでいっぱい。その前に立つ石巻劇場芸術協会の阿部拓郎さん。「キネマティカが愛されている証。つながりを大事に生かしたい」と強調
中村真季子さんの「ふみこ放浪」公演を縁に東京の俳優やプロデューサー、地元演劇人がつながる。(2列目左から)鬼嶋英治さん、中村さん、三國裕子さん、矢口さん。(1列目左から)角張淳子さん、塩田歩くさん、町屋知子さん=2023年11月5日

 石巻市中央1丁目の複合エンターテインメント(エンタメ)施設「シアターキネマティカ」が多くの演劇人や映画人が県内外からやって来て活気づいている。市民も上映会などを企画、街に新風を起こしている。キネマティカを縁に人と人がつながり交流の輪が広がっている。誕生から3年目、ますます多才な人々が交わりエンタメ文化を発信する場になりそうだ。(久野義文)

 「週1回はイベントができればいいと考えた。それがフタを開けたら、いつもイベントをやっていて、いろいろな人が出入りする熱気ある場所になった」

 予想以上の反響に驚いているのは、キネマティカを運営する石巻劇場芸術協会の矢口龍太さん(40)と阿部拓郎さん(36)。

 東日本大震災後、再生に動き出した街に22年8月にオープンしたキネマティカは「やる場」を求めていた演劇人や映画人らを刺激した。地元はもちろん県内外から劇団や俳優が「石巻に面白い場所がある」と訪れ舞台に立った。震災を題材にした映画を上映するのにふさわしい劇場として駆けつけた監督らと交流を深めた。街中にかつての映画の活気を取り戻そうと自主上映会に乗りだす市民有志が現れた。古里にできた手作りの「小屋」に石巻地方出身の俳優たちも関心、新たな縁が生まれた。

 2人は「いろいろな人とのつながりが地方文化に新しい息吹を生み、面白い街にしていく。今年はさらにたくさんの出会いが生まれる場所、チャレンジできる場所、何よりみんなの遊び場にしたい」と張り切る。

◇2024年の動き

 2024年もキネマティカは演劇や映画を中心に人が集まる場所を目指す。

 2月に演劇人たちがやって来る。石巻劇場芸術協会の企画で、2週続けて芝居を上演する。3、4日は東京のうさぎストライプ(大池容子さん主宰)が初お目見え。岩沼市出身の菊池佳南さん(仙台市)が一人芝居で圧倒的なパフォーマンスを披露する。10、11日は石巻市渡波出身の小林四十さん(東京都)が登場、古里で本格的な芝居に臨む。

 3月には昨年7月に死去した石巻市出身の俳優鈴鹿景子さんを追悼するイベントが行われる。鈴鹿さんの一人芝居を収録した映像を上映する。映画ワークショップも計画。撮影の体験を通して映画づくりの面白さを味わう。

◇エール送る

「夢膨らむ場所」 石巻市出身・俳優 半海一晃さん(65)=川崎市=

 シアターキネマティカは僕の原点のような小屋。2年前に帰省した時、ステージから客席を見渡した瞬間、初めて立った舞台の光景がよみがえった。ドキドキ、ゾクゾクした。あの時、キネマティカに抱いた興奮と感動は今も覚えている。

 年齢を重ねることで、できる味がある。井上ひさしさんの「父と暮せば」をここで上演したい。石巻高の大先輩である中村雅俊さんと舞台で共演した「フーちゃんのこと」もいいね。ちっちゃな役だったが女性が一人絡むので、この役を石巻で演劇活動している人にやってもらう。その場合、セリフや出番を増やす。夢がどんどん膨らむ。そんな場所だねここは。人が集まれる空間にして街ににぎわいを取り戻してほしい。

「愛される劇場」 東京・劇団 球 代表 田口萌さん

 一昨年に続き昨年も劇場を拝見させてもらった。客席仕様が進化していて、さらにシアターとしての雰囲気が倍増していた。ますますワクワク感を抱いた。

 調整室の背後の壁には、たくさんの手書きのメッセージが寄せられていて、地元の方にも、それ以外の方々にも愛される、親しみと味わいにあふれた劇場になる予感がした。

 ぜひ劇団「球」もここで上演させて頂けたら。私たち東京の球が石巻とつながる大切な場所は「石ノ森萬画館」だけだったが、「キネマティカ」という新たな居場所を見つけた感じ。

 石巻と東京を結ぶ場として、これからますます魅力的な劇場空間に進化されることを願っている。

 お互い頑張ろう。

◇可能性を追求

「映画サミット」 石巻名画座代表 本庄雅之さん(64)=石巻市=

「太陽がいっぱい」上映後、気仙沼市から招いたゲストとトークをする本庄さん(左)=2023年6月3日

 手作り感にあふれたキネマティカを、東日本大震災後の街中のコミュニケーションの場にしようと、立ち上げたのが石巻名画座だった。昨年3月に上映会を開始、2カ月に1回のペースで計5回行った。「ひまわり」を皮切りに「太陽がいっぱい」「狂った果実」「誰かがあなたを愛してる」、23年の最後を飾ったのが「カサブランカ」だった。

 作品はバラエティーに富み、いろいろな世代の人が足を運んでくれた。石巻名画座2年目となる今年、キネマティカを映画の力で人と人をつなぐ広場にさらに育てていきたい。

 東北には細々と上映をしている小屋が秋田市や大館市、宮古市などにある。キネマティカと連携した映画サミットも面白そうだ。

「三陸結び演劇」 石巻市出身・俳優 芝原弘さん(41)=仙台市=

「やる場」ができたと張り切る芝原さん(左)は朗読劇「野菊の墓」で、石巻を拠点にする俳優・大橋奈央さんと共演=2023年6月17日

 キネマティカという劇場があるからつながっていく感じだ。

 昨年は朗読劇「野菊の墓」を上演した一方、「モノガタル」という新しい試みの朗読スタイルにも挑戦できた。それもこれも自分の古里・石巻に今は「やる場」ができたからだ。東京の大学時代の演劇仲間を呼んで、久しぶりに一緒に劇をつくった喜びは大きい。刺激にもなった。その仲間が東京に戻って、石巻に面白い劇場があるよ-と伝えることで、さらにつながりが広がっていく。

 キネマティカが「目標」を持たせてくれた。八戸や陸前高田、気仙沼など三陸沿岸の都市を演劇でつなぐ。イベント名も「三陸道芸術祭」。キネマティカを核に実現できたなら最高だ。

◇2023年、彩る

映画「有り、触れた、未来」上映を通してつながった山本透監督(中央)。「震災後のカルチャースポットとして文化を発信して」と応援=2月6日
桜坂高演劇部が活用。「若い人たちの発表の場に」はキネマティカが掲げた目標の一つだった。終演後、見送る部員たちと市民の間に交流が生まれた=2月26日
菊池佳南さん(青年団、うさぎストライプ)の一人芝居ずんだ姫子が石巻に初登場。演出は札幌市を拠点にする二階堂瞳子さんで「また石巻を盛り上げに来る」と約束=6月24日
キネマティカオープン1周年イベントに駆けつけた渡波出身の俳優・小林四十さん。古里に劇場ができたことで意欲を新たにする=8月5日
南陽市を拠点にする古川孝さん(右)が井上ひさし作「父と暮せば」を上演。「客席が近く、やりがいがあった」と充実感をにじませた。左は娘を演じた鶴英里子さん=8月19日

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