達人、辰人2024 (1) 魚の「神経締め」 ダイスイ社長・大森圭さん
2024年の干支(えと)は「辰(たつ)」。力強く天に昇る竜のように、他を圧倒する人たちが石巻地方で活躍している。熟練の技、秘伝の技、変わり種の技。努力を積み重ねる達人は、さらなる高みを目指して「辰人」となる。(7回続き)
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鮮度引き延ばす早業
水産の街・石巻市で確かな目利きと魚の鮮度を保つ「神経締め」が評判の仲買人がいる。水産仲卸業ダイスイ(同市魚町3丁目)の社長大森圭さん(46)だ。
「じゃあやりますか」
水槽のヒラメを引き上げると、慣れた手つきでスポンジの上に乗せる。魚の頭にピックを刺し、できた穴から背骨に沿うようにワイヤを差し込み、上下に動かす。引き抜いて海水を流している容器に入れるまで1分もかからない早業だ。
神経締めは、T字スパイクと呼ばれるピックやワイヤを使って鮮度を保つ手法。魚の脳と脊髄を破壊し、死後硬直を遅くする。氷締めだと4時間ほどで始まる死後硬直を、神経締めで24時間後まで引き延ばせる。
締めたヒラメやマダイは東京のすし店をはじめとした得意先に直送するという。会社は石巻魚市場のすぐそば。買い付けた魚を処理し、全国に出荷している。
梱包(こんぽう)にも注意を払う。魚種ごとに氷の量や緩衝材の位置を調整。調理開始や料理を提供する時間帯も考える。「開けた人が宝箱を見た時のように感動してほしい」と、細部にまで気を配る。
道のりは必ずしも順風ではなかった。神経締めを始めたのは約15年前。知り合いの料理人に頼まれ、見よう見まねで処理したが、返ってくるのは駄目出しばかり。「当時は嫌々だった」と振り返る。
転機は東日本大震災。「会社や、石巻で働く漁師の生活を守るため、魚価を高めたい」。処理方法と本気で向き合うことを決めた。全国を飛び回り、漁業者からは神経締めの技術を習得し、飲食店の関係者から求められている魚の状態などを聞いた。
仲買の仕組みは漁師から魚を安く買い、市場で大量に売ることがベース。しかし、年々漁獲量が減り、魚離れが進む状況で「このままでは漁業の未来は暗い」と訴える。
「地元の漁師と手を組んで、魚の魅力を最大まで引き出して売る新しい漁業をつくりたい」。自身の技で地域の水産業を変えていく。
(大谷佳祐)
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