女川・出島、悲願の架け橋 開通へ(6・完) 観光 交流人口拡大の好機に
山の斜面を少し登ると、大きな石が並ぶ開けた土地に出た。奥にはコバルト色の海がきらめく。橋の全景が見えた。
■住民の動き活発
「釣り以外に観光資源がないゼロからのスタート。だからこそ島づくりを楽しめる」。女川町出島の観光振興に尽力する一般社団法人女川未来会議出島プロジェクト代表理事の高野信さん(65)=郡山市出身=は2019年から島に通い、昨年移住した。
プロジェクトは島の海辺や神社を巡るトレッキングコース「出島トレイル」の整備を20年に始めた。島西部にある縄文時代の配石遺構群「出島遺跡」がコースの目玉だ。高野さんは「民宿から見た海の美しさにほれ込んだ。トレイルを歩いて島外の人にも味わってほしい」と語る。
橋の開通は交流人口拡大の好機。町の地域おこし協力隊員も奮闘する。太田悠介さん(26)=仙台市出身=が磨く観光コンテンツは釣りだ。昨年12月、漁場や自然の保護の視点に立った釣りイベントを島内で開催。魚を傷めない再放流方法などを伝えた。
一方で、増加が見込まれる釣り客のマナー向上にも心を配る。釣り客のごみの放置には全国各地の漁業者が頭を悩ませており、イベントでは参加者と一緒に港の清掃もした。「トラブルは間違いなく起きる。マナーを啓発し、自然保護と観光が両立する釣り場にしたい」と話す。
自然と共生したサウナ作りを進めるのは、島で暮らす協力隊員の鹿又陸さん(29)=塩釜市出身=。放置された森に手を入れ、間伐材でログハウス型サウナを作る。橋の開通に合わせたオープンを目指し「サウナを手段に森づくりを進め、利用者が『自然に返れる』場所にしたい」と意気込む。
■魅力生かす策を
それぞれの精力的な活動の一方で、町の歩みは緩やかに見える。町と住民らでつくる出島振興協議会が発足したのは22年12月。現在は駐車場整備や公衆トイレ設置などを検討している。島で暮らす70代女性は「観光客の不法投棄などで島民の負担が増えるだけではもったいない。町には島の魅力を生かす策をしっかりと示してほしい」と求める。
須田善明町長は「島の魅力はたくさんある。焦らずに進めていきたい」と言う。重視するのは島民の主体性だ。「そうでなければ人ごとになる。予算やマンパワーに制限がある中で、できることを共に考えたい」と連携の姿勢を示す。
橋の開通まで1年を切った。高野さんはその先の未来を見据える。観光の魅力づくりを通じ、島民たちも地域の良さを再発見する。観光客が増えれば、その効果は本土側にも広がる。「島を生かすことは、町全体の将来にプラスになる」
(及川智子、大谷佳祐、西舘国絵)
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