ニュースを聴く > 能登で支援活動 石巻赤十字病院副院長、「避難所・避難生活学会」代表理事 植田信策氏
石川県で最大震度7を観測した能登半島地震を受け、石巻赤十字病院は医師や看護師らを被災地に派遣している。現地を行き来して活動する植田信策副院長(60)に、初動救護班として5、6両日に珠洲市の避難所に入った際の状況や必要な支援を聞いた。(聞き手・及川智子)
避難所の改善に注力、東日本の教訓生きた一面も
-現地での活動内容は。
「223~316人が避難する小学校を3カ所巡り、避難所の環境や支援状況の評価、避難者の診療に当たった。道路が崩れた所もあり、移動のコース選びが大変な状況だった」
-課題と感じた部分は。
「全てにおいて支援が遅い。飲料水は届いていても生活用水がなくて手が洗えず手指衛生が不十分だった。仮設トイレが入り始めたが、300人規模の避難所で2基だけの所もあった。居住環境は土足で雑魚寝。簡易ベッドで寝て粉じんを吸わないようにしないといけないが、ベッド自体が届いていなかった。運送手段や準備する人員はどうにかなるはずだが、優先度が低いと感じた」
-48時間以内に整えるべき設備として、TKB48(清潔で安全なトイレ、温かい食事を提供するキッチン、雑魚寝を防ぐベッド)の必要性を提言してきた。東日本大震災の教訓は生かされたか。
「各都道府県が段ボールベッドの協定を結び、要請すれば届く仕組みになっている。そこから先は県や自治体の考え方、優先度に左右されるが、少なくとも県庁まで来るようになった」
「避難所で段ボールベッドが欲しいと言えるようになったのは教訓が生かされているのかもしれない」
-土足や雑魚寝は改善されたか。
「管理者らに話し、高齢者や要介護者がいる場所を土足禁止にしたと連絡があった。できることはやろうと考えたのだと思う」
-避難所の様子は。
「食事は3カ所とも自炊していた。調理器具を持ち寄り、畑の野菜を使って3食温かい食事を作っていた。普段から地域の祭りで協力して作るそうで、コミュニティーの中で役割分担もできていた。そういう所には菓子パンなどではなく食材、管理栄養士や調理する人の支援が入るといい」
-災害関連死も出ている。
「時間がたち状況が悪くなると増える危険性はあり、低体温症対策が必要だ。体の熱が奪われないように床に寝ず、服の重ね着をして、体から熱を作れるように食事をちゃんと取ることだ」
-熊本地震や北海道地震でも現地入りした。
「東日本大震災以降では今回が一番ひどい状況じゃないかと思う。被災範囲が広く半島部でアクセスしにくい。建物の被害が多く津波被害は一部だったが、津波で流されたに等しい状況かもしれない」
-必要な支援は。
「手洗いできる水と入浴や洗濯ができる環境だ。マンパワーの問題もあり、介護できる人も必要になってくる。介護が必要な方は福祉避難所に集まってもらい集中的に介護できるのが一番いい」
-今後の活動は。
「まずは避難生活を続けられる環境をつくることが第一。避難所の環境を良くすることが役目だと思っている。環境を改善し、新しい病気の発症を防ぐことを目的に活動していく」
植田信策(うえだ・しんさく)さん、1963年京都市生まれ。東北大卒、東北大大学院修了。県立がんセンターや県立循環器・呼吸器病センターなどを経て2009年に石巻赤十字病院呼吸器外科副部長、15年に同呼吸器外科部長、18年から現職。20年から一般社団法人「避難所・避難生活学会」代表理事を務める。
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