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ブルーインパルス搭乗記(3) エンジンスタート 合図で6機一斉始動

エンジンを始動し行われる作動点検(静岡県の写真愛好家・鈴木智子さん撮影)

【元航空機整備士・添田潤】

 操縦席に乗り込む際、座席の赤い座面に遠慮しながら土足のまま立ってから座ります。このとき、緊急時に乗員を座席ごと放出する「射出ハンドル」や、左右のコンソール(肘掛け部分)のスイッチに足を引っかけないよう注意しなければなりません。Gスーツを着て裾が一回り大きくなっているのでなおさらです。車の2点式シートベルトに該当するラップベルトをきつく締め付けます。腹部というより太ももを締め付ける感じになります。

■スイッチ類確認

 機体に横付けされた電源車から電力が送られると操縦席の中が一気にきらびやかになります。コンソールの左後方から操縦者と一緒にスイッチ類の確認を一つ一つ行います。後席でも無線装置、スピードブレーキのスイッチの位置、アンチロックブレーキと火災警報装置のテスト、それとサーキットブレーカー(電気回路用遮断器)が正常位置にあるかを確認します。

 1番機の合図で6機一斉に右のエンジンからエンジンをスタートさせます。電源車からの電力によりモーターで軸流コンプレッサーを回転させます。エンジンの回転計はこれ以上回すとエンジンが壊れるいわゆるレットゾーンに入る回転数を100%として示します。10%に達したところでスロットルをアイドリングの位置に進めます。自動的に発火プラグが作動し、その後燃料が噴射されます。排気温度計が上がり着火したことを示します。

 同時に油圧ポンプも回転し、ブレーキに油圧がかかり軽い振動とともに踏み込み代(しろ)が深くなります。30%を過ぎた辺りでエンジンに取り付けられた発電機が定格電圧に達し、発電機の警報灯が消えます。

 また、エンジンのコンプレッサーから抽出した空気で酸素を作り出すOBOGS(オボグス)が正常作動し酸素マスクの中に圧力がかかります。不意に気管に空気が入り込み、思わず声を上げたくなります。50%を過ぎ、エンジンが定格回転に達すると左のエンジンスタートに移ります。

■正常作動を診断

 両エンジンがアイドリングの定格回転に達するとパイロットは電源車からの電源コードを取り外すハンドシグナルを整備士に送り、機体独自で自立運転となります。各種装置が正常に作動しているかどうかの自己診断機能が働くと計器の針がぐるっと回り近未来的な警報音が鳴り、診断の結果異常がなければ正常の表示に戻ります。

 操縦席の計器盤右下に警報灯が集中しています。全て正常に作動しているので全部消灯していると思いきや一つだけ点灯したままになっています。左のエンジンに供給する燃料タンクを優先的に使用している警報灯です。ブルーインパルスの機体は標準機と違い燃料タンクの一つがスモークオイル専用になっています。そのため右のエンジンに供給する燃料タンクの容積が小さいので、左側のエンジンに供給する燃料タンクから左右のエンジンに供給するためです。上空で左右の燃料量が同じになったら通常運転に戻します。

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