石巻が生んだ不世出の彫刻家 高橋英吉小伝「海の三部作への序章」、市民有志が復刻
石巻市が生んだ不世出の彫刻家高橋英吉(1911~42年)の小伝「海の三部作への序章」(154ページ、縦17センチ、横10.5センチ)が市民有志によって復刻された。初版は2003年で、絶版状態だった。作品を常設する市博物館が2021年11月に開館したことを機に英吉への関心が高まる中、代表作である「海の三部作(黒潮閑日、潮音、漁夫像)」がどのように生まれたかを知ることができる貴重な冊子がよみがえった。
英吉は東京美術学校(現・東京芸術大)研究科を中退し1937年、大洋漁業鮎川事業所で捕鯨見習いをした後、同年9月に捕鯨母船で南氷洋(南極海)に向かい、翌38年4月に帰港。その後、海の三部作が制作されたことは知られている。
だが南氷洋で英吉が何を見て、何を感じたかは戦後も不明だった。そこに21年前、光を当てたのが「海の三部作への序章」だった。著者は鈴木多利雄さん(1914年、石巻市真野生まれ)。南氷洋で英吉と行動を共にした人だった。
小伝によると、鈴木さんは捕鯨母船の作業員募集に応募し、鮎川で英吉と出会う。「英ちゃん」「すずっくん」と呼び合う仲となり友情を深めた。その鈴木さんの目に映ったのは船上で無心にデッサン帳に向かう英吉だった。鉛筆で描く線は筋骨たくましい人間の動作や姿勢だった。海で働く男たちの姿が、後の海の三部作に結実する。
小伝で鈴木さんは「彫刻家高橋英吉の目はいつももっと高いところ、深い部分を見つめていた」と語り、英吉の芸術魂に共感。友の活躍を期待していたが、新聞で英吉の戦死を知り愕然(がくぜん)とする。
小伝を復刻させたのは4人の発起人からなる「復刻する会」。市博物館に海の三部作を見に来た人たちに、完成までの背景を知り作品への理解を深めてほしいという願いからだった。代表の本間英一さん(74)=石巻千石船の会副会長=は「鈴木さんは十数年前に亡くなったと聞いているが、英吉が海の三部作に込めた思いが、南氷洋で寝食を共にした友である鈴木さんの視点からつづられていて興味深い」と話す。
復刻版には新たに英吉の一人娘で木版画家の幸子さん(82)=神奈川県逗子市=からのメッセージ、英吉ゆかりの地を紹介するマップなどが加えられている。
500部発行。定価800円(税抜き)。石巻まちの本棚、まねきショップ、ヤマト屋書店などで扱っている。連絡先は本間さん090(9536)2354。
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