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ブルーインパルス搭乗記(6) ダーティーローパス 車輪を出したまま飛行

車輪を出したまま着陸灯を点灯させ、編隊飛行をするブルーインパルス(静岡県の写真愛好家・鈴木智子さん撮影)

【元航空機整備士・添田潤】

 離陸滑走が続きます。加速で頭が後ろに引っ張られないように首に力を入れたまま耐えます。周りの景色は速過ぎて目がついていきません。その間も操縦者は各種諸元を読み上げます。

 操縦桿(そうじゅうかん)がわずかに引かれると機首が上がり、滑走路は見えなくなりますが、滑走路を走る振動は続きます。突然にこの振動が消えます。タイヤが地面から離れたことを意味します。

■最短距離で追う

 通常の離陸なら、離陸と同時に車輪を格納しフラップ(高揚力装置)を通常に戻し、どんどん加速しますが、ダーティーローパス(車輪を出したままの編隊飛行)なので、速度制限があり、1番機に追い付くためには2番機や3番機の旋回経路のさらに内側を通らなければなりません。このため離陸後の低高度から左旋回を開始します。左主翼の先にあった北上運河が瞬時に消え、大曲浜に出て、最短距離で1番機を追いかけます。

 3番機までの空中集合が終わる中、2番機の下をかすめるように1番機の後ろに付きます。通常車輪を格納すると自動的にブレーキがかかり、車輪を停止させてから車輪を折り畳みます。

 ものすごい回転のまま車輪を格納すると、脚室内の配線を傷つける可能性があることと、車輪のジャイロ効果により主脚が変形しないようにするためです。ダーティーローパスのため車輪は出したままなので2番機の車輪はまだ回っています。

 美しい編隊飛行なのに、なぜダーティー(汚い)なのか。米軍用語で外装品のない車輪を格納した飛行形態をクリーン形態と呼びます。車輪を出したままなのでクリーンではないことからダーティーと呼ぶそうです。米軍的には「北でなければ南」「AでなければZ」という考えなのでしょう。

■操縦桿は休まず

 規定の位置につくと操縦者が2番機に対しハンドシグナルを送り、2番機は1番機にこれを送ります。すかさずレッツゴーの無線が入り、スモークを引きながら左旋回を開始。航空祭の会場となる飛行場に正面から進入します。このときスロットルは前後に大きく行ったり来たり、操縦桿は一瞬として止まることはありません。高度計が反時計方向にゆっくりと回りながら進入します。若干の降下姿勢で進入することを示します。地上から見たとき、降下姿勢の方が着陸灯がきれいに見えるからです。

 目の前に1番機が、左右にはスモークを引いた2番機と3番機に挟まれ逃げ場所がない息苦しさがあります。2番機と3番機の主翼の補助翼がせわしなく動きます。操縦者がそれだけ細かい修正を行っていることに他なりません。後席には後方確認用バックミラーが付いています。3本のスモークがきれいに映ります。

 会場を通過後、ギアアップの無線で4機一斉に車輪を格納します。ダーティー形態からクリーン形態となったブルーインパルスを下方から見上げると機体の曲線美が何ともセクシー。見とれてしまいます。会場を通過後、左旋回して三陸沿岸道の鳴瀬大橋に向かいます。途中牛網池を通るとき、当たり前ですが地図と同じ形にちょっと感動しました。

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