能登半島地震 東日本大震災学ぶ、生かす(4) 原発 避難の難しさ浮き彫り
正月の平穏を襲った石川・能登半島地震。津波被害や原発の立地など、東日本大震災で被災した石巻地方との共通項は多い。震災では注目されなかった建物の倒壊や火災など、想定すべき新たな課題も表面化した。次の大災害で被害を最小限に食い止めるため、私たちに必要なことは何か。石巻地方と能登半島。二つの被災地の現状と課題を探った。(大谷佳祐、西舘国絵、漢人薫平)=6回続き=
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ブルーシートで覆われた住宅は、外壁がはがれ落ち、扉や窓が外れ、一部が傾いていた。北陸電力志賀原発から北東に約7キロの石川県志賀町草木地区。避難を続ける住民の谷内(やち)美代子さん(68)は「原発事故が起きなくて良かった。それが一番の思い」と話す。
志賀原発が立地する志賀町は、全域が原発5キロ圏(PAZ)と5~30キロ圏(UPZ)に指定されている。能登半島地震で最大震度7を観測し、住宅被害は計6929棟(12日現在)に上る。
■専用道通行止め
UPZにある谷内さん方は、事故時は被ばくを抑えるため屋内退避が求められる。ところが、損壊した自宅では外気を遮断できない。町の広域避難計画は約40キロ北東の能登町への避難を想定するが、避難経路の一つである自動車専用道路「のと里山海道」は、路面やのり面が崩れて通行止めが相次いだ。仮に避難できても、能登町もまた深刻な被災状況にある。
谷内さんは「家にはいられないし、道も壊れている。どこにも逃げられない」と諦めたように話した。
能登半島地震は原発事故からの避難の難しさを浮き彫りにした。東北電力女川原発(女川町、石巻市)は、東日本大震災で自動停止した2号機が9月ごろの再稼働を予定する。
原子力規制委員会の指針を基に避難計画を作成した石巻地方3市町は、現時点では能登半島地震を受けた計画の見直しを予定していない。取材に対し、石巻市は「昨年10月に見直した。国の検証を経て対策すべきことがあれば検討する」、東松島市は「規制委の今後の対応を注視する」、女川町は「陸路寸断の想定はすでに盛り込んでいる。新たな見地が示されれば検証や改善を進める」と答えた。
■実効性なさ現実
石巻市民が東北電に2号機の再稼働差し止めを求めた訴訟で、原告側は避難計画に実効性がないことを指摘してきた。原告団長を務める原伸雄さん(81)は「訴えてきたことが現実になった」と元日の衝撃を語る。
控訴審で東北電側は、1月末にあった第2回口頭弁論に合わせた反論の提出を直前になって2月末に延期した。原さんは反論が能登半島地震にも触れていることを期待したが「能登半島の『の』の字もなかった」と落胆する。
■牡鹿も条件同じ
牡鹿半島は能登半島と地理的な条件が重なる。高齢者が多く、避難には困難が伴う。同市小渕浜の元牡鹿町議、阿部盛さん(88)は「能登のように道路や橋が寸断されれば、牡鹿は逃げ場が限られる。再稼働の安全対策工事が進んでも、不安は尽きない」と語った。
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