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ブルーインパルス搭乗記(9) レインフォール 傘型隊形が大きく散開

後半に傘型隊形が大きく散開し、見応えのあるレインフォール               (静岡県の写真愛好家・鈴木智子さん撮影)

【元航空機整備士・添田潤】

 傘型編隊のまま旋回を継続し石巻港を左手に見て洋上に出ます。私たちが航空祭の会場となる飛行場を通過したのを見計らって5番機がインバーテッド&コンティニュアスロール(滑走路上を低空で背面飛行後、反転し急上昇、さらに反転し宙返りをして滑走路上に戻って来る課目)を開始します。

■8~9Gの負担

 インバーテッド&コンティニュアスロールは背面飛行が長く操縦席内で宙づりになり、マイナス1G(重力)の状態が続きます。その後一瞬で反転し、さらに6Gの上昇に移るため、体にかかる負担は8Gにも9Gにも感じられます。

 その間に洋上から密集した傘型編隊で会場正面に回り込みます。レインフォールは傘型編隊で宙返りを行い、後半に傘型隊形が大きく散開する見応えのある課目です。

■燃料の均衡、確認

 ブルーインパルスの機体は標準機と違い燃料タンクの一つがスモークに使用するスピンドル専用タンクになっています。そのため右のエンジンに供給する燃料タンクの容積が少なく左側のエンジンに供給する燃料タンクを優先的に使うため、左右の燃料のバランスが同じくらいになると1番機から通常に戻す指示が来ます。演技に夢中になって忘れないように無線により全機で確認を取ります。

 傘型隊形のまま会場の手前で宙返りを開始します。ゆっくりと上昇を開始するイメージですが最初から強めのGがかかります。1番機が最大出力で飛行すると他の機体が追いつけないため、推力に余裕を持たせて上昇します。

 頂点を通過したところでスモークを出しながら宙返りを継続し、真下を向く頃に1番機の合図で扇形に散開します。1番機は降下とともに高度を読み上げ、各機はそれに合わせます。降下するときに速度が出過ぎないようにスロットルレバーが休みなく動きます。ジェットコースターがウインチで引っ張られ頂点を通過後無重力に近い、内臓の座りが悪くなるような感じが延々と続きます。

■無重力状態続く

 大きな扇が開いたところで1番機の合図でスモークを止めます。無重力に近い状態が長く続いたので自然界の1Gに戻ると体が重く感じます。大きな扇型に開いたので、4番機は1番機から大きく離れています。私は完全に1番機を見失っていますが操縦者はちゃんと見えているようです。

 例え話ですがハエたたきを持ってハエを狙うとき、何かに止まっているときやハエが歩いているときはちゃんと見えるのにいったん飛び上がってしまうとたちまち見失ってしまいます。3次元空間に浮かんでいるものに焦点を合わせるのは訓練が必要です。

 そんな私のために?1番機は短くスモークを引き居場所を教えてくれます。次の課目に間に合うように最大出力で最大荷重をかけて1番機への空中集合を目指します。コントロールチェックの時よりさらに強いボディーブローを打たれたようにGスーツの中に空気が入ってきます。体重の5倍以上の重さに背骨がきしみながらも1番機を見つけるため首を回しますが頸椎(けいつい)は石臼状態です。この状態でも操縦者は無線交信し、次の課目の準備に入ります。

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