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ブルーインパルス搭乗記(12) フォーシップインバート 4機が背面飛行で進入

背面飛行したままダイヤモンド編隊で通過するフォーシップインバート(静岡県の写真愛好家・鈴木智子さん撮影)

【元航空機整備士・添田潤】

 水平旋回で8の字を描くレターエイトの終了後、洋上に出て大きく右旋回します。野蒜海岸を右に見て嵯峨溪の真上を通って宮戸島を巻き込むような形で、フォーシップインバートの準備に入ります。ダイヤモンド編隊で飛行する4機が背面飛行したまま、航空祭の会場となる飛行場を通過する課目です。

■擦れ違い、スリル

 この間5、6番機はオポジットコンティニュアスロールを行っています。この課目は会場右手から5番機が、左手から6番機が低高度高速でギリギリで擦れ違うスリリングなものです。

 しかし、お互いが滑走路の両端を飛行し、さらに会場が見上げたときギリギリに見えるように6番機が若干高い高度を飛行するため、絶対にぶつからないのでご安心を。観客を魅了するとともに諸外国の軍事関係者に対し、他方向から進入しても定時定点攻撃できる技術を誇示しています。

 オポジットコンティニュアスロールの終了を見計らいながら、野蒜方面から大きめのダイヤモンド隊形で進入します。鳴瀬川を通過したあたりからスモークを引き始め、滑走路端に差し掛かったあたりで1番機の合図で1番機と私の乗る4番機が背面になります。

■全重量がかかる

 自分の体重、ライフジャケット、ヘルメットなどの全重量が太ももを縛るラップベルトにかかります。背骨や頸椎(けいつい)の椎間板が一気に伸ばされる完全に逆さまの状態が継続するわけですが「あれ? 滑走路しか見えない。1番機が見えないんですけど」などと思いながら冷静に考えてみます。

 レターエイトの高荷重の際には酸素マスクのホースが重くなって、顔が下がりましたが、今回は酸素ホースに逆に引っ張られて上を(今は背面になっているため下を)を向くように顎が上がってしまっています。前を見るには顎を胸につける感じで下を(上を)向かなければなりません。

 ヘルメットの重さに打ち勝つように、首に力を入れるがまだ足りない。そんなことをしているうちに、2、3番機も背面となり、幅寄せしてきます。思わず悲鳴を上げたくなりながら渾身(こんしん)の力を込めて顎を引き付けると、やっと1番機が見えました。

 見えたのもつかの間「リカバリーレディー」の1番機の合図がかかります。背面から通常の姿勢に戻るため180度回転する際、他のブルーインパルスと空中接触しないように十分な距離をとるために背面のまま上昇します。

 頭に血が上り顎を引き付けている力をからかうような力で元に戻されます。自由落下はゼロG(重力)なのでマイナスGは自然界ではあり得ないことです。

■脊椎に衝撃走る

 1番機の「ナウ」の無線で180度回転して通常の自然界に戻る際、伸び切った椎間板が一気につぶされる感じで脊椎がダルマ落としにあったような衝撃があります。

 やっと自然界に戻ったと思ったのもつかの間、1回転のサービスロール(演技終了後360度横回転をすること)をして高荷重をかけながら右急旋回して洋上へ向かいます。5番機と6番機はビックハートを描く準備に入っています。これから私の乗る4番機はハートの矢を射に行きます。

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