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ブルーインパルス搭乗記(13) キューピッド 空のハートに矢を射る

矢を射るタイミングがとても難しい課目「キューピッド」(静岡県の写真愛好家・鈴木智子さん撮影)

【元航空機整備士・添田潤】

 4機のダイヤモンド隊形(ひし形隊形)のブルーインパルスが背面で飛行するフォーシップインバート終了後に洋上へ出る際、私の乗る4番機のみスモークを何度か引きます。

 これは遠く洋上を飛行する5番機に「4番機は今ここだよ」と教えるためです。5番機は4番機の位置を確認し、ハートを描いた後、間髪入れず4番機が矢を射ることができることを勘案し飛行します。

■描く場所を推量

 そして5番機はハートを描き始める場所が決定したら「ここからハートを描くよ」とスモークを引いて4番機に5番機の位置を知らせます。4番機はその位置からハートを描く場所を3次元的に推量して全速力で洋上を進みます。

 5、6番機は急上昇を開始し、同じ旋回重力でハートを描き始めます。ハートを描く際5、6番機は反対側を向いているのでお互いを確認できません。5番機は高度を無線で読み上げ、6番機はそれに合わせてハートを描いていきます。洋上を進む私には、とてもハートとは言えないいびつな形にしか見えません。5番機が描く手前のスモークと6番機が描く向こう側のスモークの幅が小さくなっていきます。

 4番機の矢を射るタイミングは早くても遅くても駄目です。矢を射るといっても直線的急上昇です。矢を射る初速が遅いと途中から速度を上げるのは難しいので、速い速度を保持したままタイミングを計ります。

■チャンスは一度

 5、6番機がハートを描き終わる前に、4番機は空域に入る合図を無線で送信した後に右旋回をして矢を描きにいきます。スモークを引き始めてから先は、方位、上昇角を少しでも変えると矢が曲がってしまいます。三次元的方向修正を終了させ、一発で決めなければなりません。

 スモークを引き始め、直線的上昇飛行を開始します。5番機が引いたスモークの中を通ってハートの中に入ります。ハートといっても、私の目には単なる1本のスモークに過ぎません。

 ハートの中心は皆目見当がつきませんが、ハートの中心でいったんスモークを切ります。矢を修正するのはスモークを引いていないハートの中心から6番機が引いたハートを出るまでの間しかありません。その間に修正してハートを出る瞬間から再びスモークを引きます。

■恐怖、信頼で消す

 キューピッドの課目終了時1~3番機はラインアブレストロールの準備に入っています。この課目は3機が横一列のままロールをするものですが、主翼と主翼の間が掛け値なしの近距離で2、3番機は真横を見たまま高荷重下で操縦します。ロールの後半で野蒜方面に向きを変えることで、2番機は1番機に追従しつつ、1番機が覆いかぶさってくる恐怖を信頼で消し去るのです。

 T4の主翼は翼の両端が下がる「下反角」という構造なので、横一列で真っすぐ飛ぶことだけでも高い飛行技術が要求されます。横を飛行する下反角を持ったブルーインパルスがわずかに上昇または下降しただけなのに、まるで自分が横に回転している錯覚に陥ります。この感覚が乗り物酔いを誘発し、気分が悪くなる人も少なくありません。

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