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ブルーインパルス搭乗記(14) ワイドトゥデルタループ 傘型隊形に移り宙返り

小さな傘型隊形に移行しながら宙返りするワイドトゥデルタループ(静岡県の写真愛好家・鈴木智子さん撮影)

【元航空機整備士・添田潤】

 キューピッドのハートを描いた6番機と矢を射た私の乗る4番機は、大急ぎで三陸沿岸道鳴瀬大橋に向かって高度を下げ、横一列で宙返りをするラインアブレストロールを終了した1~3番機と合流し、基地の北側でワイドトゥデルタループの準備に入ります。

■5Gの水平旋回

 ハートを描いたもう1機の5番機は、休む間もなくスリーシックスティーンアンドループの演技に入ります。この課目は低高度高速で進入した5番機が会場を5G(重力)の360度水平旋回した後、すかさず宙返りをするものです。

 課目開始から終了まで5Gがかかりっぱなしの体力的に厳しいものです。仮に体重60キロとして単純に上半身30キロとすると通常1Gで30キロの重さが腰椎にかかっていますが、気になることはありません。

 これが5Gとなると150キロの重さが腰椎にかかることになります。ヘルメットやライフジャケットの重さを勘案すると200キロ以上の荷重が腰椎に演技終了まで常時かかる計算です。5番機に乗りたいなんて言わないで良かった。

 閑話休題。大きな傘型隊形のまま三陸道を通過し基地上空に北側から進入します。ラインアブレストロールの静かで美しい課目を見て興奮が収まりクールダウンしている航空祭会場の観客の中には、後方から5機が大きな傘型編隊で通過するので驚かれる方も多いと思います。

 航空祭会場となる滑走路上空でスモークを引き始め、滑走路を通過したあたりから宙返りを開始します。上昇を開始して間もなく1番機の合図で2~4番機と6番機は宙返りをしながら頂点に達する前に小さな傘型隊形へと移行します。

■夏と冬で推力差

 私が搭乗した時は冬だったので、気温も湿度も低く空気密度が高いため推力に余裕があり、楽に小さな傘型隊形へと移行できましたが、夏は気温も湿度も高いため空気密度が低くなり、推力が足らなくなります。

 特に両端に位置する4番機と6番機は移行する距離が長く、左右対称の形を描かなければならないため、我先にと小さな傘型隊形に移行するわけにいかず、お互いに合わせなければなりません。速度が速いからといって、わずかでもエンジンの推力を下げてしまうと、その後回復することは無理で左右非対称になってしまいます。

 たかが気温の差でと思われがちですが、夏と冬の推力の差の大きさには驚かされます。

■燃料換算が大変

 ワイドトゥデルタループ終了後、各機体の残燃料を1番機および地上の指揮所に連絡します。燃料計の針は2本あり、それぞれの針の合計を連絡するのですが読み取って計算しているうちに、全6機の操縦者は素早く計算し、報告を済ませていました。このときの残燃料の連絡を受けた1番機の判断で以降の演技課目が変わることもあります。

 燃料は地上の燃料給油車(タンクローリー)のタンクに入っている際の単位はリットルですが、航空機に給油するときは単位がガロンとなり、航空機に入ってしまうと単位がポンドとなり換算が大変です。

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