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ブルーインパルス搭乗記(15) デルタロール 景色が回るような錯覚

三角隊形のまま空にらせん状の航跡を描くデルタロール(静岡県の写真愛好家・鈴木智子さん撮影)

【元航空機整備士・添田潤】

 ワイドトゥデルタループ終了後、牡鹿半島を見ながらゆっくりと右旋回をしている間に5番機がどこからともなくジョインナップ(空中集合)してきます。今まで4番機が飛行していたポジションを譲り渡し、私の乗る4番機は1番機の真後ろに付きます。

■銃身らせん状溝

 6機がデルタ隊形(三角隊形)のままバレルロールを行うデルタロールの課目に移行します。バレルロールの由来には諸説ありますが、銃の銃身(バレル)の内側に掘っているらせん状の溝(ライフリング)、スパイ映画「007」のオープニングに出てくるあの模様です。あの模様のような横回転をする飛行技術です。地上目標を見失うことなく地上火器をかわしたり、空中戦で相手機の後ろに付いたりするための重要な戦技といわれています。

■6機全て一枚板

 6機そろって密集隊形になるとどこにも逃げられない息苦しさを感じます。そのまま大きなバレルロールをするわけです。主軸線の真後ろの4番機は1番機の後を追従しますが、6機全てが一枚板のようになったままでの課目ですので、5、6番機は大きくひねり込みながら追従します。

 航空機整備士としてどのような操縦をしているのか不思議でなりません。時速700キロ以上で飛行しているのを忘れてしまうくらいぴったりと追従してきます。まるで私たちが止まっていて、景色が回っているような錯覚に陥ります。

 話はそれますが、JR鹿妻駅前に先代のT2超音速練習機のブルーインパルスが展示してあります。この航空機は音速を超える速度で飛行できる性能がありますが、エンジンの空気取り入れ口がラップの芯のように細くて長いため、ひねり込んだり横滑りしたりするとエンジンの空気取り入れ口に乱流が発生し、すぐに異常燃焼を起こしてしまう脆弱(ぜいじゃく)性を持っていました。

 以前この機種のエンジン交換後のテストフライトに搭乗中、岩手県宮古沖で最大推力、最大荷重での水平旋回の試験を行った時「ドン! ドンドン!」というものすごい音とともにむち打ちになるのではないかと思うほどの前後の振動を伴う異常燃焼を起こしたことがあります。

 いろいろな警報灯が点滅し緊急脱出装置のハンドルをしっかりと握り締めたことを覚えています。異常燃焼を起こしたエンジンを停止し、片方のエンジンのみの力で帰投しました。途中釜石観音沖を通過する時、無事帰れますようにと本気で手を合わせました。

 現在のブルーインパルスの操縦者は神の領域の技術だと思っていますが、先代のT2ブルーインパルスの操縦者はまさに神ではなかったかと思っております。

■既に体力の限界

 石巻湾から航空祭の会場となる滑走路を斜めに横断するように飛行してデルタロールは終了します。通常会場を離れるとルーズな隊形になりますが、次のデルタループに向けての経路は会場から目視距離のため密集隊形を保持したまま飛行を継続します。私はもう既に体力の限界を過ぎて集中力が切れてしまい早く終わってと願うばかりでしたが、操縦者は片時も気を緩めることはありません。

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