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ブルーインパルス搭乗記(16) デルタループ 空と陸、逆転の宙返り

6機で三角形隊形を保持したまま宙返りを行うデルタループ(静岡県の写真愛好家・鈴木智子さん撮影)

【元航空機整備士・添田潤】

 デルタロール終了の密集隊形のまま飛行を続けます。今まで何度も鳴瀬川を上流に向かい、支流の鞍坪川を巻き込むように右旋回をする飛行を繰り返してきましたが、今回は逆に鞍坪川から鳴瀬川に入るように左旋回で飛行します。

■修正困難な課目

 鳴瀬川を河口に向かって飛行後、北上運河を巻き込むような形で滑走路上に進入し、デルタループに入ります。デルタループは6機でデルタ(三角形)隊形を保持したまま宙返りを行う課目です。デルタロールのようにひねり込みはありませんが、6機そろっての宙返りのため、わずかなミスもはっきり分かる修正の利かない難しい課目です。

 滑走路上空に差し掛かり静かに上昇を開始すると思っていたら、急に4G(重力)近い荷重をかけながら上昇を開始します。同時に前方視界から陸と海が消えて空だけになります。

 ブルーインパルスの後席には後方確認用のミラーが付いていますが、前方視界が空だけになったと同時にミラーに地上が写ってきます。ミラーに写る風景が宮戸島と鳴瀬川から滑走路全体を見下ろす感じになり、垂直上昇に近いことが分かります。

 計器盤の姿勢指示器は白が空を、黒が地上をそれぞれ表し、白と黒の境界線が水平線や地平線を意味しています。垂直上昇になった瞬間、姿勢指示器がぐるっと半回転します。

 その後、白と黒が逆になった状態で背面を迎えます。完全に背面になっても遠心力がかかっているため、地上にいる時とさほど違和感はありませんが、完全に天地が逆転したまま、6機が何事もなく追従していることに強い違和感を覚えます。2番機と3番機の主翼の補助翼と水平尾翼が細かく動いています。何事もなく見えるように細かく操縦かんを操作していることが分かります。

■内耳の圧力調整

 ブルーインパルスの操縦席は地上から約4000メートルまで与圧がかかりません。上昇していくと気圧が低くなり、内耳の圧力が高くなり空気が逃げていきます。逆に降下すると内耳の圧力が下がり鼓膜を外から押される感じになり、無線の声が聞こえなくなります。

 このようなときは鼻をつまんで鼻腔内の圧力を上げるバルサルバ氏法を行いますが、マスクを着けているためなかなかうまくいきません。操縦者は両手がふさがっているので顎を動かし喉の耳管を広げて内耳の圧力を調整しているものと思われます。

 その後、頭の上から地上が下がってきます。垂直降下に向かうと今度は地面しか見えなくなります。垂直降下の瞬間は姿勢指示器がぐるっと1回転して通常の状態に戻ります。

■操縦かん、強めに引く

 美しいループにするため垂直降下から水平飛行に戻るとき操縦かんを強めに引きます。気流に対する翼の角度が大きくなっている警報音がゆっくりとした周期で鳴ります。失速に陥るくらいになると激しい周期で警報音がなるのでまだまだ余裕があります。

 上昇を開始した付近にスモークが残っていて、このスモークを通るとき乱気流も残っているため機体が軽く振動し、水平飛行に移ります。そのまま石巻湾を右旋回します。航空祭の会場となる飛行場から目視距離にあるので気を抜くことはできません。

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