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ブルーインパルス搭乗記(17) ボントンロール 6機全てが横に1回転

6機全機が横1回転をするボントンロール(静岡県の写真愛好家・鈴木智子さん撮影)

【元航空機整備士・添田潤】

 デルタループ終了後も一糸乱れぬ飛行が継続されます。航空祭の会場となる滑走路から目視できる上、課目と課目の間も、演技の範疇(はんちゅう)であるためです。私の精神力と体力は限界に達していて惰性で同乗している感がありましたが、操縦者は一瞬の隙も見られません。

 雲雀野埠頭(ふとう)を巻き込む形で洋上に出て、さらに右旋回し海岸線と平行になるように進路を取ります。今までの密集隊形より少し大きなデルタ(三角形)隊形に移行しながら会場を斜め右に見る形で進入します。

■打ち合わせ綿密

 ボントンロールはスモークを引いて進入し、スモークが切れたタイミングで6機全機が横1回転をする課目です。操縦者は飛行訓練の前に綿密な打ち合わせを行いますが、この打ち合わせの最後に6人全員が卓上に右手を出して人さし指だけを伸ばし、何かを指さすような形を取ります。

 操縦桿(そうじゅうかん)の人さし指で操作する引き金に似たスイッチが、スモークを引くスイッチになっています。1番機操縦者の合図で引き金を握るまねをしてスモークを引くイメージを頭に描きます。次に1番機操縦者の合図で引き金を離し、スモークを止めて操縦桿を右に倒すタイミングを実際に計ります。

 今までより間隔の大きなデルタ隊形を作ります。この時の間隔の大きさは2番機の操縦者の技量で決まります。1番機の合図でスモークを引きながら進入し会場が真横に来た辺りで1番機の合図でスモークを切ります。

■頭、大きく振られ

 その後、飛行訓練前の打ち合わせのタイミングで操縦桿が右に大きく倒れるとともに機体も速いレートで右回転を始めます。頭が置いて行かれそうになり、なんとか耐えますが、水平飛行に戻る瞬間は反対方向に操縦桿を倒す「あて舵(かじ)」を取るためピタッと止まります。頭は慣性で回転が止まらず大きく振られます。

■傘型編隊に移行

 そのまま宮戸島上空に向かいますが、5番機はバーティカルキューバンエイトの課目に入るため離脱します。私の乗る4番機は今まで5番機が飛行していたポジションに移り、傘型隊形に移行します。宮戸島を巻き込むような形で高度を取りながら、会場の北側に回り込み、次の準備に入ります。

 この間に行う5番機のバーティカルキューバンエイトは滑走路上空に縦の8の字を描く課目で、機体の性能と操縦者の技術が要求されます。滑走路に進入した5番機はそのまま宙返りを行い背面で頂点に達したときに反転し、さらに上昇し2回目の宙返りを行います。2回目の宙返りの頂点に達したときは失速に近い速度で、操縦桿を動かしても空気抵抗だけが増えて制御が難しくなります。操縦桿と方向舵を複雑に操作できないときれいな縦8の字にはなりません。日本の航空技術と操縦技術の高さを諸外国の軍事関係者に見せつける意味も大きい課目です。

 1番機は5番機の課目の進捗(しんちょく)状況と5番機の報告を聞きながら、次の課目に入るタイミングを取ります。

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