紙すき指導で交流10年 石川の遠見さん、石巻・北上小6年生と卒業証書作り
石川県輪島市の和紙職人遠見和之さん(51)が、石巻市北上小で地元産ヨシを使った卒業証書作りに10年間携わっている。能登半島地震で工房に甚大な被害を受けたため年明けの恒例行事だった紙すき体験が開催できずにいたが、5月31日に実現した。児童との交流を楽しんだ遠見さんは「元気なパワーをもらって帰れそうだ」と笑顔を見せた。
遠見さんは能登唯一の和紙職人として知られる。コウゾなど伝統的な材料のほか、杉皮や竹を使う「能登仁行(にぎょう)和紙」を手がける。祖父の故・周作さんが1949年ごろに工房を始め、遠見さんは3代目。地元で取れる多様な珪藻土(けいそうど)や工房周辺に咲く花々などを混ぜ込んだ独自の和紙が人気を博す。
元日は、輪島市三井町にある工房で、立ち上がれないほどの揺れに襲われた。外にあった水のタンクが壊れ、工房に入り込んだ水で原料は泥まみれになった。れんが造りのかまが崩れたり、コンクリートブロックでできた乾燥機の土台が壊れたりする被害を受けた。
2月初旬に復旧作業に取りかかり、破損した箇所を手作業で修復。3月に制作を再開した。遠見さんは「東日本大震災を経験した石巻の人々の苦労を実感した」と振り返った。
石巻との縁は約10年前にさかのぼる。北上小で地元産のヨシを使った卒業証書作りが始まった2014年度、地元企業の依頼を受けて協力を始めた。例年1月ごろに北上小を訪れ、5年生に紙すきを教えてきた。10回目となった今回は年度をまたいで5月末の開催となったが、6年生12人の親子向けに体験会ができた。
紙すきは、原料や水、のりの溶液を簀桁(すげた)ですくい上げ、縦横に揺らして紙の厚さを調整する。遠見さんは一人一人に手順を説明し、時に手を貸しながら、初めての作業に挑戦する様子を目を細めて見守った。
参加した西條夢乃(うの)さん(11)は「5年生の時から楽しみだった。地震で大変な時に来てもらい、感謝しています」と遠見さんに述べた。
すいた和紙は遠見さんが工房に持ち帰り、脱水や乾燥の工程を経て完成させる。来年3月には、卒業証書となって児童の巣立ちを飾る。遠見さんは「ヨシを原料として使うことも、卒業証書にすることも珍しい。地元を大事に思ってもらう機会として、今後も継続したい」と意欲を見せた。
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