わいどローカル編集局 > 針浜(女川町)
「わいどローカル編集局」は石巻地方の特定地域のニュースを集中発信します。18回目は「女川町針浜(はりのはま)地区」です。
<「板碑」数多く現存>
波穏やかな万石浦の東端にあり、山々を背負う女川町針浜地区。東日本大震災での津波でも流失を免れた数多くの古碑が現存することで知られ、中世から近世にかけての歴史と、そのロマンを現代にひっそりと伝え続けている。
古碑とは、一般的に板碑と呼ばれる石造の卒塔婆で、現世利益や後生安穏を願って建立する文化が中世仏教で全国的に広がったとされる。町教委が2001年に発刊した「女川町の板碑」によると、町内で確認されている板碑62基のうち、17基が針浜にある。
町で最も古い鎌倉時代の建治2(1276)年の板碑を含む計10基が、地区の中央、農業木村貞一さん(87)宅の裏手にある。木村さんの祖父の代に発見され、周辺に遺構が見られないことから、近隣から集められたものと考えられている。
「この集落が昔から住み良い所で、ご先祖様が暮らしていたことを実感できる」という木村さんは、さらに時代をさかのぼる歴史の痕跡を発見している。自宅から約700メートル北側にある山中からは、波状の文様が残された縄文時代のものと思われる土器や、石器の破片が今でも大量に出土する。
現場では木村さんが20代のころ、木を伐採し、炭焼きをしていた。当時は竪穴住居らしき跡もあったが、雨風やシカなどの動物が踏みならして形が失われていったという。木村さんは「先人の生活が分かる貴重な史料になる。今からでも調査に入ってもらえたらありがたい」と望む。
国道398号の迂回路、全線2車線化完了 災害時の避難道に
女川町浦宿浜から万石浦の東南を経由して石巻市渡波方面へと続く道路がある。国道398号の迂回(うかい)路として2023年3月に全線2車線化の整備が完了した。災害時の避難道としての役割を担うとともに、きらめく万石浦を見渡せる景観の良さも注目されている。
道路は女川町浦宿浜から針浜を経由し、県道石巻鮎川線の風越道路に合流する全5.2キロ。女川町道浦宿猪落(いのどし)線(3.6キロ)と、石巻市道屋敷浜・猪落線(1.6キロ)が接続する。
女川町は古くから、万石浦の北を通る国道398号が石巻市とつながる「生命線」で、災害で通行止めとなった場合、町が孤立する恐れがあった。1997年、故須田善二郎町長が町道浦宿猪落線の整備に着手。急勾配でカーブが多い山道を2車線化し、万石浦トンネル(全長423メートル)を整備して2003年度に石巻市との境界まで整備を終えた。
接続する市道屋敷浜・猪落線は道幅が狭い状態が長く続き、トラックが擦れ違えなかったり、脱輪したりするトラブルが相次いでいた。東日本大震災の復興事業として整備し、23年3月に2車線化が完了した。
須田善明町長は「石巻市には整備していただきありがたい。交通や物流への安心感は大きい」と感謝する。
夕焼けに照らされる万石浦を眺められるのも、この道の魅力。国道や県道を経由すれば万石浦をぐるりと周遊することもでき、サイクリングコースなどとしての活用も期待されている。
ヤマホンベイフーズ、伝統の味守り挑戦続ける
女川魚市場で水揚げされたサンマやギンザケなどの加工品を製造する「ヤマホンベイフーズ」。万石浦を見晴らす静かな針浜地区に立つ工場は、旬のギンザケの加工作業に活気づいている。
女川魚市場近くにあった同社は、東日本大震災の津波で、ヤマホン本社工場など全8棟が壊滅的な被害を受けた。早期再建に向け、被災直後から新たな土地を探し求め、15カ所目で針浜にたどり着いた。
現場の休耕田は農地転用が必要な上、建築制限がある市街化調整区域だった。行政の協力を得て、通常より早期の用途変更にこぎ着けた。がれきと化した工場で、前工場の設計図やレシピが奇跡的に見つかったことも早期着工を後押しし、2012年5月、新工場で操業を再開。ギンザケの水揚げに間に合わせた。山本丈晴社長は「再建を応援し、土地を譲ってくれた針浜の皆さんに助けられた」と振り返る。
串に刺した銀色のサンマをやぐらにつるし、真冬の寒風と陽光にさらす看板商品の「サンマ天日寒風干し」は、女川町の冬の風物詩だ。空気が澄んだ針浜は、寒風干しに絶好の環境だ。山本社長は「1年の7~8割は奥羽山脈から吹き下ろす北西の風が吹き、魚が乾きやすい。想像以上に良い商品が作れる」と胸を張る。
近年はサンマの不漁が続く。小型のサンマも生かした商品作りや、養殖ギンザケやトラウトサーモンの加工品にも力を注ぐ。震災を乗り越えて、愛され続ける味を守りながら、新たな挑戦が続く。
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女川・雄勝販売所と連携し、漢人薫平、相沢美紀子の両記者が担当しました。次回は「石巻市前谷地」です。
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